第543話 これから、お兄さんたちは怖いことをするから

 聞こえた銃声は五発。その後は、聞こえてこない。 


 廃工場内に入った人たちには、エラを護衛に付けてあるから大丈夫だとは思うが……


「カイトさん」


 ミールは不安気な眼差しを僕に向ける。


「ここは、あたしの分身体を中に送り込みましょう」


 それをやったら、《海龍》に残してきたジジイの分身体が確実に消える。


「待ってくれ。ミール」

「でも」


 僕はミールの耳元に口を寄せ、そっとささやいた。


「分かったんだよ。誰が接続されていたのか」

「え!? レムは、アンドロイドに引っかからなかったのでは」

「接続されていたのは……」


 名前を聞いてミールは驚く。


「そのことで、どうしてもジジイの分身体から確認したい事がある」

「そうですか」

「北村君」


 アーニャに呼ばれて振り向く。


 彼女の手には、通信機が握られていた。


「エラの通信機とつながらないのよ」


 おそらく、電撃を使って自分の通信機を壊してしまったのだろう。


「ちょっと様子を見てくる」


 みんなにそう告げると、僕は加速機能を使って廃工場に駆け込んだ。


 だが、僕が到着した時には……


「司令官殿。もう片づいたぞ」


 予想はしていたが、残党はすでにエラが片付けた後だった。


 エラの周囲で、三人の男たちが倒れている。


 近くに黒こげ死体となっているものも……いや、黒こげ死体の方がはるかに多いか。


 プラズマボールを使ったな。


 それはいいのだが、近くにいる子供たちが黒こげ死体を見て怯えているぞ。


 こりゃトラウマになりそうだな。


「残党が、子供たちの列に襲いかかってきたのでな。とっさにプラズマボールを浴びせて、黒こげにしてやった」

「銃声が聞こえたが、怪我人は?」

「大丈夫だ。銃弾は、すべて私の高周波磁場で防いだ」


 よかった。


「司令官殿が口を割らせたいだろうと思って、三人ほど生かしておいたぞ」

「それは助かる」


 早速、一人を揺り起こして質問した。


「おい。おまえらの仲間は対岸の砦に行ったぞ。なぜおまえらは残っていた?」

「へん! 誰が言うか」


 そう来ると思った。


 僕は様子を見ている子供たちの方を向く。


「君たち。これから、お兄さんたちは怖いことをするから、後ろを向いて耳を塞いでいてくれないかな」

「はーい」


 子供たちは、素直に僕の言うことを聞いて、後ろを向き両手で耳を塞ぐ。


 一方、それを聞いていた男は……


「おい! 怖い事って? 俺に何をする気だ?」

「おまえが素直に僕の質問に答えるのなら、子供たちが怯えるような事は何もないのだが、話す気になったかい?」

「ならねえよ」

「そうか。エラ。話したくなるようにしてやってくれ」

「任せておけ。一々起こすのは面倒だから、気絶しない程度に加減しておこう」

「ちょっと待て! 気絶しない程度って、俺に何を……ウギャア!」


 気絶しない程度の電撃がしばらく続き、男はようやく話す気になった。


「子供たちを少しでも砦に連れていこうと……それと、ボドリャギンの奴が余計な事を喋る前に始末しろと、モロゾフさんの指示で……」


 ボドリャギン? ああ! ダニの事か。


「ボドリャギンは、おまえらのリーダーだろ? なぜ殺す?」

「ボドリャギンがリーダーだったのは、さっきまでだ。今のリーダーはモロゾフ」


 モロゾフって、落書き女の父親だったな。


 なるほど。この混乱に乗じて、リーダーの座を乗っ取ったわけか。


 ボドリャギンを殺すのも、口封じというより邪魔になったからだな。


「子供たちを連れて行こうとしたと言ったが、あの砦には子供はいないのか?」

「いない」


 いないのか。ならば、砦は《海龍》《水龍》からの艦砲射撃で片付くな。


 ただ、こいつが本当の事を言っているか確認するには、やはりミールの分身魔法しかないな。


 尋問はここまでとして、僕たちは廃工場から出た。

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