第524話 怪しいおじさん

 町の人たちは、僕らを取り囲んで口々にナーモ語や帝国語で何かを言っているが、取り立てて何かをしようとはして来なかった。


 しかし、このままじゃらちがあかん。


 ロボットスーツの翻訳ディバイスを帝国語に合わせ、僕の正面にいる男たちの会話を聞いてみた。


「おい。あの金色の鎧……本物の勇者カイトか?」

「いや、コスプレじゃないのか?」


 コスプレと思われているのか? それは好都合。


「だいたい、勇者カイトが、なんでアーテミスなんかに来るんだよ?」

「そりゃあ、これから帝国をぶっ潰しに行くから、部下を募集しに来たんじゃね?」


 いや、募集なんかしてねえし……


「部下の募集!? 俺、応募しちゃおうかな」


 来られても困る。こりゃあ、早いとこ逃げた方がいいかな。


 しかし、僕だけならすぐに逃げられるが、レイホーと芽依ちゃんを残していくのはマズい。


 この人たちから、レイホーと芽依ちゃんはどう見られているのか?


 翻訳ディバイスを南方ナーモ語に変えて、ナーモ族の女性たちの声を拾ってみた。


「一緒にいる女の子たちは誰かしら?」

「どっちかが、恋人じゃないの?」

「ええ! 勇者カイトの恋人って、ナーモ族の女の子じゃなかったかしら?」

「ああ! きっと不倫しているのだわ。しかも、二人も……」

「最低!」

「勇者と言っても、やっぱり男よね」


 非道ひどい言われようだな。


「あら? 勇者カイトの恋人って、いつも一緒に戦っているピンクじゃないの?」

「ああ! 帝国軍がピンク悪魔デビルと呼んでいるという」


 芽依ちゃんの顔が、ピシっとひきつった。


 無言だが、その目は『悪魔デビルだなんて非道い』と如実に語っている。


 とにかく、騒ぎになる前に逃げよう。


 僕は、芽衣ちゃんとレイホーにそっと耳打ちした。


「今から僕が飛び上がって、みんなの注目を上に向ける。その間に君たちは、ここから走り去ってくれ」


 二人は無言だったが、コクコクと頷く。


「イナーシャルコントロール 0G」


 重力を打ち消し、僕は飛び上がった。


「おお!」「飛んだぞ」


 みんなの視線が僕の方に集まる。


 その隙に、芽依ちゃんとレイホーは群衆からそそくさと逃げ去った。


 とりあえず、この場はしのげたけど、何とかしないと、ロボットスーツのままアーテミスで活動するのは難しい。


 一度 《海龍》に戻って、ロボットスーツを脱いでモーターボートで出直すか?


 いや、モーターボートは《水龍》《海龍》に一隻ずつしかなく、二隻とも今はアーテミスにいる。他には無動力の救命ボートしかないし、そんな物でチンタラ移動していたら日が暮れる。


 プリンターでモーターボートを作るのも、カートリッジがもったいないし《海龍》を港に入れるか?


 いやだめだ。


 そもそも《海龍》《水龍》を沖に残してみんなをボートで行かせたのは、桟橋なんかに接舷したら、ジジイが船内に忍び込んでくる恐れがあったからだ。


 やはり、ロボットスーツで行くしかないな。


 金色が目立つなら黒く塗りつぶすとか……いや、まてよ!


 僕は通信機でPちゃんを呼び出した。


「Pちゃん。今から《海龍》に戻る。それまでにプリンターで用意して欲しい物が……」



 甲板に降りると、Pちゃんはすでに僕の言った物を用意してくれていた。


「ご主人様。用意できましたが、こんな物をどうするのです?」

「もちろん、僕がこのまま着る」

「このまま着るって? ロボットスーツの上からですか?」

「そのために、大きいサイズにした」

「私は向こうで、プロレスラーにでもプレゼントするものかと思いました」


 この惑星にプロレスなんてないだろ。


 まあ、似たような興業スポーツはあるみたいだが……


 しかし、やはりロボットスーツの上から服を着るのは結構難しい。


 ミールとPちゃんに手伝ってもらい、なんとか黒いトレンチコートを着込んだ。さらに、大きめに作った黒いデンガロンハットを被る。


「どうだい? ミール」

「カイトさん。それじゃあ、まるで怪しいおじさんです」

「いいんだよ。怪しまれたって。僕だとばれなければ」


 それに機動兵器の上から服を着て変装するというのは、マ○ロスでも使っていた由緒正しいやり方だ。


 由緒正しいとは、ちょっと違うか。 


 僕は再び《海龍》から飛び立った。 


 帽子を飛ばされないようにスピードを落として、飛行すること十分。


 アーテミスの服屋で、買い物をしているキラとミーチャを見つけた。

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