第521話 ミクが危ない
ロータスを出たときには、アルダーノフを捕まえた時の賞金などが入ってずっしり重くなっていた僕の財布は、今回の事ですっかり軽くなってしまった。
いいんだ。みんなが喜んでくれるなら……
甲板の上で、女性クルー全員に金貨を一枚ずつ配ったけど、惜しくなんかないんだからな……
「あらあら、何を買おうかしら?」
一枚の金貨を眺めながら、アーニャが嬉しそうにしていると、
「どうせ、全部お酒に消えるのでしょ」
「お酒だけじゃないわよ。オツマミも買うわよ」
つくづく、この人には親近感が沸くな。
「はいはい、ほどほどにね。健康診断の時に後悔しないように」
「美玲こそ、何を買うの?」
「息子と、夫へのお土産を買うわ」
この人、既婚者だったのか。
「あ……あの北村さん」
ん? 芽依ちゃん、どうしたのだ?
「本当に、私までもらっていいのですか?」
「芽依ちゃんも、ジジイから被害を受けただろ。これは僕からではなく、本来ジジイが受け取るはずだったお金だ。つまりジジイから取り立てた損害賠償だよ」
「それでは、遠慮なく……何に使いましょう?」
芽依ちゃんは、そのまま考え込む。
「ミーチャ。何か欲しいものはないか? お姉さんが買って上げるぞ」
「ええっと……特には……」
「そうだ! 服なんかどうだ?」
「男物の服ですよね?」
「もちろんだ! 私は、誰かさんと違って、ミーチャに女装をさせて喜ぶ趣味なんかないぞ」
キラの奴、ミクがいない間にミーチャとの仲を深めたいのだな。
は! いかん! ミールが険しい目でキラを見ている。
「ミール」
僕はミールの手を掴んだ。
「カイトさん?」
「ちょっと、こっちへ来てくれ」
ミールを連れて、司令塔の陰に隠れた。
「ミール。キラの事は、大目に見てやろうよ」
「え!? ああ! あたしはそのつもりですけど。キラの修行も、もうすぐ終わりだし」
「え? そうだったの? でも、なんかキラを睨み付けていたみたいだけど」
「その事ですか。ちょうど良かったです。カイトさんに、お話しなければと……」
「ご主人様! ミールさん! こんなところで何を……」
司令塔の陰からPちゃんが現れた。
「Pちゃん、ちょうど良いときに来たわ」
「え?」
ミールは周囲を見回した。
「カイトさん。Pちゃん。このままではミクちゃんが危ないです」
ミクが危ない?
「どういう事だ? ミール」
「この中にレムのスパイがいるとするなら、ミクちゃんが一人で行動している事がレムに知られてしまったはずです」
しまった!
レム「千載一遇のチャンスじゃ。
部下たち「ははあ。レム様」
今頃、こんな事になっているという事か。
「確かに、ミールさんの言うとおりです。ミクさんを呼び戻しましょう」
「待って、Pちゃん。レムだって、今すぐどうこうできるわけじゃありません。今呼び戻したら、あたしたちが、レムのスパイに気が付いた事に、気付かれてしまいます」
それは不味いな。
よし! ここは……
「今日は休みにして、みんなでアーテミスに上陸しよう」
「カイトさん。こんな時になにを」
「ご主人様。休んでいる場合では」
「話は最後まで聞いて。上陸すると言っても、僕とミールとPちゃんはここに残る。上陸する全員には、ミニPちゃんを持って行ってもらって、居場所を常に把握できるようにしておくのだよ」
「カイトさん。この状況を利用して、スパイを見つけようというのですか?」
「そう。上陸して別行動しているみんなのところへ、荷物持ちという名目で、僕はロボットスーツで飛んでいく。そして、ミクに関する欺瞞情報を流す」
「なるほど。アーテミスにいるレムの配下が、誰の聞いた欺瞞情報を元に行動するかを見て、スパイを特定するというのですね」
「その通り。それでは取りかかろう」
三十分後。二隻のモーターボートが艦隊を離れた。
一隻には、馬美玲、アーニャ、エラ、カミラを乗せて。
もう一隻には、芽依ちゃん、レイホー、キラ、ミーチャを乗せて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます