第484話 地下道

 どうやら、ドローンのレーダー波を逆探で見つけたようだ。


「しょうがないね」


 アーリャさんは電話を切ると、部屋の真ん中へ行ってフローリングの床に手を伸ばした。


 トンと床を叩く。


 床の一部がスライドして、地下へ続く階段が現れた。


 こんな仕掛けもあったんか。


「さあ、あんたたち。一緒に来ておくれ」


 アーリャさんに促されて、階段を降りていく。


 五メートルほど下ると、平らな地下道があった。


 地下道は、壁も床の天井もコンクリートで塗り固められている。


 ただ、少々狭い。


 横幅も高さも二メートルはない。


 ひょっとすると、僕の身長よりも低いのでは?


 ゴチ!


「痛たた!」


 頭がぶつかった。やっぱり低いんだ。


「カイトさん、大丈夫ですか?」「ご主人様、大丈夫ですか?」


 ミールとPちゃんが、心配そうに僕を見つめる。


「大丈夫。ちょっと、頭をぶつけただけだから」


 アーリャさんが、こっちを振り向いた。


「このトンネル、天井低いから気をつけてね」


 そういう事は、先に言ってほしい。


「アーリャさん。このトンネルは、いつ作られたのですか?」

「ロボット達が、この村の建物を作った時に、いっしょに作ったんだ。外が放射性物質で汚染されても、家々を行き来できるようにね」

「ということは、三十年前に掘られたのですよね。大丈夫ですか? 崩れたりしませんか?」

「ああ大丈夫、大丈夫。このトンネルは、三十年間一度も崩れたことなんてないから」


 三十年間一度もなかったからといって、最初の崩落が今起きないという保証がどこにあるんだ?


 これ以上、ここにいると閉所恐怖症になりそうだな。と思った時、アーリャさんは一つの階段を登り始めた。


 地上に出るようだ。


 地下道から上がったら、そこはさっき地下に降りる前いた部屋と似た造りの部屋。村の建物は、すべて同じ造りなのかな?


「アーリャさん。地下から来たのですか?」


 声の方に目を向けると、パソコンディスクの前で栗色の髪をショートカットに切りそろえたボーイッシュな少女が、驚いたような表情でこっちを見ていた。


「地下から来ちゃ悪いかい? ライサ」


 この女の子、ライサと言うのか。


「いえ、悪くはないですが、地上からくるものと思っていました」

「私だけならいいのだけどね」


 アーリャさんは僕たちを指さした。


「こちらのお兄さんたちが、ドローンに見つかるとまずい事になりそうだと思ってね。そうなんだろ?」


 そこまで考えてくれていたのか。いや、確かに僕とミールの姿がドローンに映ったら非常にまずい。


「その通りです。僕らはかなり、帝国軍の恨みを買っているので」


 アーリャさんは、ライサの方へ向き直る。


「それで、ドローンの数は?」

「確認できているのは一機だけです。レーダー使ってもいいですか?」

「だめだ」

「しかし、三日前に新しいレーダーを、村からかなり離れたところに設置しました。使っても、村の位置は特定されません」

「敵は今ところ、私たちの存在にすら気がついていない可能性がある。レーダーを使えば、気づかれる」

「そうですか。でも、わざわざ南島にドローンを送って来たと言うことは、もう気づかれているのでは……」


 ライサはパソコンの方に向き直った。


「あ! 山頂に設置したカメラが、ドローンの姿を捉えました」

「映像を出して」

「はい」


 ライサがパソコンを操作すると、画面に円盤型ドローンの姿が現れる。


「あれは!?」


 ミールが目を丸くして映像を見つめた。


「フーファイターだ! どうやら、僕らを探しているようだ」

「でも、カイトさん。敵は北島に送った囮に騙されたのでは」

「矢納さんならあれで騙せると思うけど、小淵ならあれは囮で、僕らが何らかの手段で南島に上陸した可能性を考えるだろう」

「困りましたね」

「仕方ない。今日一日はこの中に隠れて、北島への偵察は明日に延期しよう」


 アーリャさんがこっちを振り向く。


「それがいいよ。いきなり北島に行くより、私たちが集めた資料に目を通してから行った方がいいだろう」

「ええ。それではお言葉に甘えてそうさせて頂きます」

「ライサ。このお兄さんに、北島の資料を見せて上げて」

「はーい」


 ライサはパソコンディスクから立ち上がると、横にあったロッカーから、分厚いファイルの束を取り出した。


 こんなにあるのか。こりゃ夜までかかりなりそうだな。

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