第481話 集落2

 振り向くとヨボヨボの爺さんが、ミールの尻をなで回している。


「ふほほほ。良い尻じゃのう。ナーモ族のお嬢ちゃん」

「な……何するんですか! いきなり」


 ミールが爺さんをひっぱたこうとしたが、老体とは思えぬ素早い動きでひらりと避ける。


「あ! このスケベジジイ! また帰ってきたか」

「お客さんに、なんて事すんのよ!」

「村の恥さらしが! 今日と言う今日は許さない」


 女性たちは手にほうきやすりこぎ棒を持って、爺さんを追い回し始めた。


 しかし、女性たちが棒や箒を振るっても、爺さんは寸前でかわしてしまう。


「待てえ! エロジジイ!」

「こりゃ娘たち。か弱い老人に何をする気じゃ」

「おのれのどこがか弱いんじゃ!」「村の娘だけで飽きたらず、ナーモ族の娘にまで」

「老い先短い老人の唯一の楽しみじゃ。大目に見ろ」

「老い先短いなら、今日を命日にしてやるわよ!」


 な……なんなんだ? この爺さんは……


「ふえーん! カイトさん! 変なおじいさんにお尻を触られてしまいました」

「ミール……その……」

「ミールはもうお嫁に行けません。エッグ! エッグ!」


 大丈夫だよ……と言おうとしたとき、胸ポケットから顔を出したPちゃんが先に口を挟んできた。


左様さようでございますか。では、ミールさん。ご主人様のお嫁さんになるのはあきらめるのですね?」

「イヤです。諦めません。それに……」 


 ミールはお腹に手を当てた。


「ここには、カイトさんの赤ちゃんが……」


 えええええ!? いや……身に覚えは……あるのだが……


「宿る予定ですので……」


 予定だったのか……あせった……


「あの、お嬢さん」


 ナージャのおばさんが心配そうに声をかけてきた。


「うちのエロオヤジが、本当に申し訳ない事をしました。許してください」

「あ……いえ……あの爺さんはいったい……」


 僕の質問にナージャが答えた。


「ルスラン・クラスノフ博士。自分では偉大な大科学者だと言っているけど、お婆ちゃんに言わせるとマッドサイエンティストだそうよ」


 マッドサイエンティスト?


 おばさんの方を見ると頭を抱えていた。


「恥ずかしながら、私の父です。元気がいいのだからナンモ解放戦線に行けば良かったのに『か弱い老人を戦争に行かせる気か』と行って村に止まっていたのよ。まったく、どこがか弱いのだか。あんなに元気がいいのなら、戦争に行ってくりゃいいのに」


 困った爺さんだ。


「おばさん。私も同意見だけど、今爺さんに死なれると困るのよね」

「ナージャ。別に困ることないだろう」


 いや、その言い方ヒドくね。実の父に対して……


「いや、私としてはここにいる北村さんに、あの爺さんを引き合わせたいと思っていたんだ」


 なに?


「どういう事だ。ナージャ」

「私のうろ覚えの記憶なのだけど、子供の頃あの爺さんに聞いた事があるんだ。爺さんのオリジナル体が地球にいたとき、レム・ベルキナのオリジナル体と会った事あるそうなんだよ」


 なんだって!? 

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