第465話 マイクロマシン1(回想)
実際、二人は聞いていて大いに慌てた。
「小淵君、やばいよ。晶ちゃん、あの男に着いていく気だよ」
「恐らく、探りを入れる気でしょう。しかし、迂闊でした。橋本さんがこんな行動に出るとは……とにかく、止めさせないと」
小淵は携帯で、橋本晶を呼び出した。
だが、留守電のメッセージが流れるだけ。
「小淵君、無理だよ。晶ちゃんの携帯は、この電話と繋ぎっ放しなんだから……」
「そうでした」
小淵は、スピーカーモードにしていた部屋の電話を切ってから、もう一度かけ直す。
しかし、今度は電源が切れているとのメッセージが……
「仕方ない」
小淵は壁に掛けてあった絵画を外した。その裏にある金庫を開けて、レーザー銃を取り出して身に付ける。
「さあ、矢部さん。急ぎましょう」
二人は部屋から駆け出して、階下のガレージに止めてある車に飛び乗る。
その少し前、喫煙所では矢納が誰かに電話をかけていた。
「ああ、俺だ。一人追加したいのだがいいか? そうか。まあ大丈夫だと思うが。え? 検査? ああ、分かった」
矢納は電話を切って、橋本晶の方を振り向く。
「姉ちゃん。来てもいいが、倉庫の一階で検査するけどいいか?」
「検査? 何をするのです?」
「姉ちゃんが、保安部のスパイじゃないか調べるって事だよ」
「どうやって?」
「別に裸にしようという分けじゃない」
「されてたまりますか」
「録音とか録画とかする装置を持っていないか、変な電波を出していないかを調べるだけだよ」
不味いと思った。変な電波なら、今も懐に入れてある携帯電話から出しっぱなしだ。
懐に手を入れ、携帯を取り出した。
「携帯電話なら持っていますが、電源を切っておけばいいですね」
今まで通話状態だった事を隠すために、大急ぎで電源を切った。
「今、電源を切らなくてもいいのだがな。建物に入るときに携帯を預けてくれればいい」
「そうですか」
小淵が彼女の携帯に電話をかけたのは、ちょうどこの時だった。
そのまま、二人は喫煙所を出て倉庫に向かう。
倉庫の入り口に来ると、金属探知機を持った男が待ちかまえていた。
三十代半ばくらいの、陰気な目つきの男は無言で金属探知機を向ける。
金属探知機のブザーが鳴った。
男は無言で橋本晶の刀を指さすと、その指をテーブルに向けた。
刀をそこに置けと言いたいようだ。
彼女は刀と携帯、さらに小銭入れをテーブルの上に置く。
再び金属探知機を向けられた。
反応はなかった。そこで初めて男は口を開く。
「携帯はここに残しておいてもらおう。他は好きに持って行ってかまわん」
「いいの? 刀を持って行って」
「二度も言わせるな」
武器を使うような事態は起きないという事か? あるいは日本刀ぐらいでは対処できないような事態が待ちかまえているのか?
どっちにしても、今更引き返せない。
橋本晶は刀を手にすると、矢納と一緒にエレベーターに乗り込む。
扉が閉まる寸前、車のブレーキ音が耳に入った。
「何かしら?」
「どっかのバカが、酔っぱらって運転しているのじゃないのか」
やがて、エレベーターの扉が開く。
その部屋は広々としていたが、調度品の類と言ったらパイプ椅子がいくつかあるだけ。
肝心の麻雀卓もない。
「ここで、本当に麻雀ができるの?」
「麻雀卓は隠してある。用意するから、そこらの椅子に座って待っていてくれ」
そう言って矢納は隣室へ続く扉へと歩いていく。
彼女の中で警報が鳴った。何かがおかしい。
逃げ道を確保できるかと、窓の方を振り向く。
「……!?」
窓の外にドローンが浮いていた。そのカメラが彼女の方を向いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます