第426話 フライング・トラクター1

 未確認飛行物体を発見したと言っても、こちらのレーダーはすべて止めていたので、レーダーで発見したわけではない。相手がレーダーを使い始めたので、そのマイクロ波を逆探知したのだ。


「Pちゃん。未確認飛行物体のデータを……」

『すでに島の直上にいます』


 なに? 真上に……


 上を見上げだが、木々にさえぎられて何も分からない。


 だが、レーダーを確認すると確かにマイクロ波が上から照射されている。


 と言うことは……


「芽衣ちゃん! 飛ぶよ」

「はい!」


 僕と芽衣ちゃんは重力制御で、森の上に飛び上がった。


 これは? 実にシュールな光景だ。


 そこにいたのは、飛行機でもヘリコプターでもなく、一台のトラクターだった。


 これが地上にいたのなら『それがどうした?』というところだが、問題なのはこいつが空を飛んでいるという事……


 しかし、空飛ぶ車って僕の時代にも開発されていたけど、もっと洗練されたスタイルだったよな。


 重力制御だから空力学的な形状は必要ないのだけど、なんで武骨なトラクターを飛ばすのだろう?


 いやいや、トラクターが悪いわけじゃないけど、これってトレーラーとかを牽引するための車両だよな。


 そうか! この前、カルカシェルター近くの砂漠でトレーラーを牽引していたのはこいつだな。


 こいつに飛行機能を持たせていたのか。


「ミサイル来ます」


 芽衣ちゃんの叫び声で、ハッと我に返った時にはミサイルが至近距離に迫っていた。


 すでに芽衣ちゃんが火炎弾フレアを放っていたおかげで避けられたが……


 僕は通信機を手に取った。


「ただいまより、無線封鎖を解除」


 言うと同時に映像をPちゃんに送る。


 トラクターの車種を調べてもらうために……


 待っている間にショットガンを抜く。


 横で芽衣ちゃんもショットガンを手にしていた。


 あのトラクターに矢納課長本人がいるようだ。問題はトラクターのスペックはどの程度か?


 元々は地上で使うトラクターを改造して飛行能力を持たせたようだから、それほどの性能はないと思うが……


『ご主人様。トラクターの車種が判明しました。カタログデータを送ります』


 データによると、外見は昔からあるトラクターだが、内部には重力制御装置が組み込まれていた。


 二十一世紀の終わりごろに米軍が採用した車種で、名称はフライング・トラクター。


 まんまかい! 

 

 とにかく、改造したのではなく、元々こいつは空を飛べたのか。という事は、性能もそんなに侮れないのでは……いや、カタログを見るとそうでもないな。重力制御による最大加速は一G。ミサイルも二発積めるだけ。


 輸送用なので戦闘能力はたいしたことないようだ。


 ミサイルもすでに撃ち尽くしている。小口径のバルカン砲が残っているが、九九式の装甲を貫く威力はない。


 重力制御の他に緊急用のロケットエンジンを備えていて、これを使われたら九九式では追いつけないが、どうせ逃げる先は《アクラ》しかない。


 なら、こいつは問題ないな。問題なのはフーファイターだが……


 眼下を見下ろすと、樹木が一本倒れていく様子が見えた。射線の妨げとなっていた樹木を、キラが切り倒したのだろう。


 ドローン三号機の映像を出してみた。


 フーファイターは地表から一メートルほどの高さに浮上し、自由電子レーザー砲の鎌首を上に向けている。


 これは……!

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