第423話 ハイド島4

『まて! くそアマども!』


 フーファイターは高度を上げて、川面に向かってレーザーを撃ちまくった。


『クソ! クソ! クソ! どいつもこいつも、俺をバカにしやがって』


 バカみたいに川にレーザーを撃ち込んでいる内に、蒸発した水によって周囲は霧に包まれていく。


『いい加減にしなさい!』


 スピーカーから成瀬真須美の声が響いた。


 同時にレーザーが止む。


『痛てえな。何すんだ成瀬』

『レーザーの無駄撃ちするんじゃない! 反物質がもったいないでしょ』

『いいじゃねえかよ』

『良くないわよ。反物質を使い切って、フーファイターが動けなくなったら。フーファイターは戦わずして敵に鹵獲ろかくされるのよ』

『誰がそんなことすんだよ? 北村なら死んだぞ』

『本当に死んだと思っているの? バカじゃないの』


 やはり成瀬真須美は気が付いていたか……


『なにを言っている。奴の潜水艦なら、対消滅爆雷を三発も投下してやったんだ。生きているわけがない』

『そうですね。生きているわけがないです。フローティングアンテナの真下に、潜水艦が本当にいたのならですが……』


 男の声? これは聞き覚えがある。矢部か。


『え? どういう事だ?』

『「やられた」と敵に思わせ、ぬか喜びをさせてから反撃に出るのが隊長の常套手段でしたから……まあ、今の隊長は別人だけど、考えることは同じでしょう』

『だけど矢部。フローティングアンテナの下には潜水艦がいるはずだろ?』

『あれは十中八九デコイですよ。あの状況でフローティングアンテナを上げる馬鹿はいません。恐らく、魚雷か何かにフローティングアンテナを付けて撃ち出したのでしょう。潜水艦は今も安全圏に隠れています』

『くそ! そうだったのか。だましやがって』

『むしろ、隊長の方こそ驚いているのじゃないですかね? こんな単純な手に引っかかる馬鹿がいるとは思わなかったとか……』

『馬鹿とはなんだ! このデブ!』

『そうやって、すぐ感情的になる人の事を馬鹿というのですよ……て、ちょっと矢部さん! スピーカーのスイッチ入ったままじゃないですか』

『しまった!』


 スピーカーの音は止んだ。


 ううむ……うっかりスイッチを切り忘れていたのか、そう見せかけてこっちに聞かせようとしたのか?


 この前も、その手に引っかかったばかりだからな……


「みんな、今のどう思う?」


 発令所中を見回したが、みんな複雑な顔で考え込んでいた。


 しばらくして、アーニャが口を開く。


「一つだけはっきりしている事があるわ。私たちの死んだフリは、すでにばれているという事」

「ですね。では、その上で作戦を立てましょう」

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