第377話 ヨーヨー
「新兵器って? 芽依ちゃん、いつの間に?」
「北村さんとミールさんが、偵察に行っている間に作っておいたのです」
芽依ちゃんはそう言って、ポーチの中から直径八センチ厚み三センチほどの赤と青の円盤状の物体を二つ取り出し、左手に赤、右手に青いのを一つずつ握りしめた。
そのまま、両腕を胸の前でクロスさせて身構える。
「む!? 何をする気だ?」
その様子を見ていたエラは警戒した。
芽依ちゃんはクロスさせていた両腕を前に延ばして、それぞれの円盤を交互に下に落とす。
シャー! という音を立てて円盤は落ちていき、床にぶつかる寸前で上昇して芽依ちゃんの掌に戻った。
これって、ヨーヨー?
「芽依ちゃん……こんな時に何を遊んで……」
「遊んでなんかいません」
一方、この様子を見ていたエラの顔に驚愕の表情が現れた。
「それは……私は知っているぞ。その武器を……超合金ヨーヨーだな」
いや……ヨーヨーが武器というのは俗説で、これが武器として使われた史実はなかったと思うが……
「ほう。知っていましたか。エラ・アレンスキーさん」
「ああ。地球にいた頃、日本の学園ドラマで見たぞ。女子高生なのに刑事とかいう、無茶苦茶な設定の主人公が使っていた武器だな」
こいつ……アニメや時代劇だけでなくて、学園ドラマまで見とったんか。
「私も、あのドラマを見ていました」
「うむ。懐かしいな」
「私もあれに憧れて、通販でヨーヨーを取り寄せて、部屋の中で散々練習しました」
「そうか、おまえもか。私もやったのだが、どうも扱いが難しくて、すぐに飽きてしまったが……」
女二人、昔のドラマの話題で盛り上がらないでほしいのだけど……
ていうか……戦場で戯れ言はやめろ!
「だが、残念だな。私には、近寄ってくる金属を破壊する能力がある。超合金ヨーヨーとは言え金属である以上私に触れる事もできまい」
「はたして、そうでしょうか」
「なに!?」
「エラ・アレンスキーさん。このヨーヨーはあなたと戦うために開発しました。青いヨーヨーはあなたのブラズマボールを防ぎ、赤いヨーヨーは高周波磁場を突破する事ができます」
「そんなバカな」
「そう思うなら、試してみますか?」
「言われずとも、やってやるさ」
おい……芽依ちゃん大丈夫なのか……
エラは輝く掌を正面に突き出した。
その掌の前に、光の玉が出現。表面温度一万度のプラズマボールだ。
「食らえ!」
プラズマボールがこちら向かってくると同時に、芽依ちゃんは右手の青いヨーヨーを前方に投げる。
ヨーヨーの紐が伸びきった時、プラズマボールの軌道が変わった。
プラズマボールはそのまま、開け放たれた窓の外へ出て行く。
そうか!
「芽依ちゃん。そのヨーヨーには電磁石が仕込んであるのだね」
「そうです。北村さんが使っていた電磁石弾は一回使い捨てでしたが、あれをヨーヨーに仕込めば何度でも回収して使えます。電磁石のON OFFにはBMIを使っています」
なるほど。
「ふん! 確かに私のプラズマボールは防げるようだな。だが、攻撃はどうする? 超合金なぞ、私に近づくだけで……ウギャ!」
エラが最後に言った『ウギャ!』は、芽依ちゃんが投げた赤いヨーヨーを額にぶつけられて時にあげた悲鳴。
「エラ・アレンスキーさん。ヨーヨーが金属製だなんて、いつから錯覚していました? このヨーヨーの紐は
エラは額から血を流し、恨みがましい目をこちらに向けていた。
「貴様……よくも、私の美しい顔を……」
そう言って、エラはプラズマボールを連続で放ってきた。
しかし、いくらプラズマボールを放っても、芽依ちゃんの電磁ヨーヨーに軌道を変えられて僕らには届かない。
プラズマボールの攻撃が止んだ隙に、芽依ちゃんは赤いヨーヨーを放った。狙いはエラの顔面。
エラは両腕を顔面でクロスさせてガードする。
カーン!
甲高い音を立ててヨーヨーが跳ね返った。
よく見ると、エラの腕には木製の手甲が装着されている。
「私の能力では金属しか防げないが、金属製でなくても顔さえ防御すれば私にダメージを与える事はできんぞ」
確かに、エラの胴体や四肢は皮鎧で防御されていた。固いけど軽いC/Cコンポジットのヨーヨーではダメージを与えられない。
しかし……
「ウギャア!」
手甲だけで顔を全部隠すのは不可能。手甲の隙間からはみ出している耳を、僕は拳銃で狙って非致死性ゴム弾を撃ち込んだ。
エラは左耳を押さえて床をのたうち回る。
しばらくして、むっくりと起き上がり……
「殺す……おまえ達……絶対……」
再びプラズマボールを放とうとするエラに向かって、芽依ちゃんは冷静に声をかけた。
「エラ・アレンスキーさん。その前に周囲を見て下さい。このままではあなたが焼け死にますよ」
「なに!?」
エラは周囲を見回した。
「うわあ! 燃えてる! 燃えてる!」
エラの放ったプラズマボールが、木の壁やカーペット、家具類に当たって引火していたのだ。
「芽依ちゃん。外に出よう」
「はい」
僕たちがバルコニーに飛び出すと、ミクの式神、アクロが待っていた。
「ミク! 頼んだぞ」
「任せて! お兄ちゃん」
その声は上空から聞こえてくる。見上げると金色の竜が飛んでいた。
「あちち!」
悲鳴を上げてエラがバルコニーに飛び出して来たときには、僕たちは空中に逃れていた。
町長室では、火の手がかなり回ったらしく、モクモクと煙が立ち上っている。
ていうか、今まで戦っていて、よく火事にならなかったものだな……
皮鎧に引火した火を叩き消しているエラに、アクロが近寄って行った。
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