第374話 意外と頑丈な建物





 役所上空には、金色の竜が滞空している。


 ミクの式神オボロだ。漢字では『朧』と書くらしい。


 まあ、それはいいとして……


 近づくとオボロにミクとミール、キラの三人が並んで跨っている。


 ミクが僕たちに気がついて手をふった。


「お兄ちゃん! あのオバン、役所から出てこようとしないんだよ。建物壊していい?」


 慌てて首を横に振った。


「だめだめ!」

「ぶう」

「それより、中の様子は分かるかい?」


 さっきから通信機で呼びかけているが、Pちゃんもアーニャも応答がない。無事だといいのだが……


 キラが僕の方を振り向いた。


「今、私の分身が、アーニャさんと接触した」

「アーニャさんは無事か?」

「無事だ。町長室から、緊急脱出口に入ったと言っている。そこから、長いシューターで地下に入ったら、通信機がつながらなくなってしまったらしい。Pちゃんもそこにいる」


 二人とも無事だったか。


「町長の話では、この地下室は三十年前にカルカの技師が作った部屋で、どんな攻撃にも耐えられるそうだ」


 カルカの技師……つまり《天竜》から降りてきた地球人だな。おそらくその地下室は核シェルターのような物だろう。頑丈なのはいいが、電波まで遮ってしまったのか。まあ、これならエラの攻撃にも耐えられるだろう。  


「ただ、問題が……町長室の入り口が完全に閉じていない。私の分身が入れたのは、そこが開いていたからなのだが……」

「シェルター内から、操作できないのか?」

「本来なら操作できるし、町長も閉じていると思っていたようだ。私が入ってきたことで、入り口が閉じていない事が分かって大騒ぎになっている」


 古いシステムだからな……


 しかし、この入り口をエラに見つけられたら……


「ミク。町長室のバルコニーに降りてくれ」

「うん、お兄ちゃん」


 ミールが僕の方を振り向いた。


「待って下さい。町長室に敵兵が向かっています。今部屋に入ると鉢合わせに……」


 まずいな……


「今から、あたしの分身を、足止めに向かわせます。でも、長くはもちませんよ」

「よし。ミールが時間を稼いでくれている間に僕と芽依ちゃんで、町長室に入って入り口を閉じよう」

「待ってくれ。カイト殿。入り口はかなり狭いところに隠されている。ロボットスーツを着用したままでは近づけないぞ。私が直接行って閉じた方がいい」


 しかし、それではキラが危険だが……いや、躊躇していたら入り口をエラに見つけられてしまう。


「分かった。では内部の安全を確保したら、ミクはキラをバルコニーに下ろしてくれ」

「お兄ちゃん不味いよ! エラの奴も町長室に向かっている」

「なに?」

「アクロがまたやられちゃった。やっぱり、巨大化しないと勝てないよ。建物少しだけ壊していい?」


 しかたない。


「少しだけだぞ」

「うん」


 ミクは懐から新たな憑代を取り出して投げた。


 憑代は鬼に変化し、バルコニーに降りる。


 壁を殴りつけてブチ破ろうとしたが……


 直後にミクの顔がひきつった。


 アクロに殴りつけられた役所の壁にはヒビ一つ入っていない。意外と頑丈な建物だな……感心している場合じゃない。


 鉄板すらぶち抜くアクロの怪力が通じないなんて……


「ダメ。壊せない。役所の壁、アクロの怪力でも壊せないよ」


 そういえば、シェルターは三十年前にカルカの技師が作ったと言っていたが、この役所の建物自体そうなのじゃないのだろうか?


「キラ。町長に聞いてくれ。この建物の素材は?」

「分かった」


 キラはしばらく目を瞑る。分身の操作に意識を集中しているのだろう。


 やがて目を開いた。


「町長は知らなかったが、アーニャさんが知っていた。なんでも、この建物自体が三十年前にカルカの技師が建造したもので、壁材にはモノクリスタルカーボンファイバーいうとう物で強化した陶器を使っていると言っているが……それで意味は分かるか?」


 単結晶炭素繊維モノクリスタルカーボンフィバー強化セラミック!? 大気圏突入でも、キツネ色の焦げ目しかつかないと言われている頑丈な素材だ。


 それを聞いてミクも驚いていた。


「それ、アクロの怪力でも無理だよ」


 しかし、さっきはアーニャの銃撃で天井に穴が……そうか。あの天井板は後から追加された物。本体は貫通しないと分かっていたから、アーニャも天井に向けて撃ったのだな。


 芽依ちゃんが僕の方を振り向いた。


「こっちから入るのではなくて、エラ・アレンスキーさんをバルコニーにおびき出してはどうでしょう?」

 

 なるほど。もちろん、囮役は僕と芽依ちゃんがやるとして……


「ミク。アクロはバルコニーで待機させていてくれ」

「うん。あのオバンが外へ飛び出して来たら、やっつけるんだね」

「そうだ。頼んだよ」

「任せて」


 上空にオボロを待機させたまま、僕と芽依ちゃんはバルコニーから室内に突入した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る