第363話 死ぬよりマシだと思ってくれ

「北村さん。これでいいのですか?」


 町の上空を飛んでいる途中、不意に芽依ちゃんが不満そうな声で言った。


「え? いいって? 何が?」

「司令官は北村さんですよ。なんで、あの人が仕切るのです?」


 ううん……そんな事言ってもなあ、僕って仕切るのは苦手だし、誰かが代わりにやってくれたらむしろにありがたいし……


「まあまあ、アーニャさんは僕らより経験も豊富だし……」

「そうですね」


 それでも、芽依ちゃん不満そうだ。


「でも……私は、北村さんの指揮下で戦いたいのです」


 そんな事言われても……


 そうしているうちに、僕らは堀を越えて町の外へ出た。


 下を見ると武装集団が町へ向かっているが、やはり統率がまるでとれていないな。これで帝国軍と戦ったら、ひとたまりもないぞ。


「北村さん。砲兵陣地が見えてきました」


 芽依ちゃんの指さす先で、五門の青銅砲が並んでいた。


「武器はどうします? 捕虜を一人捕まえるのですよね?」

「そうだった。ショットガンのカートリッジを、非致死性ゴム弾と交換しておいて。捕虜はできれば隊長がいいが、制圧した時に死なれては困るからね」

「はい」


 陣地にいる砲兵は二十人ほど。見たところ鎧など防具を着けている様子はないな。


 着けていても皮鎧程度。これなら、ゴム弾で制圧できる。


 いや、一人だけスケールアーマーを身に着け、兜を被っている者がいた。


「芽依ちゃん。スケールアーマーにゴム弾は通じるかい?」

「あんまり効果ありません」


 面倒だな。


「北村さん。あの鎧を着けた人、隊長じゃないでしょうか?」

「え?」

「ゴム弾で部下を倒した後、あの人だけ捕まえて尋問すれば……」


 なるほど……


「芽依ちゃんは右から掃討してくれ、僕は左から行く」

「はい」


 僕らは左右に分かれると、細長い砲兵陣地を挟み込むように接近。


 砲兵の一人が僕らの接近に気がついたときには、至近距離まで迫っていた。


「て……敵襲!」


 兵士が叫ぶのと、僕がトリガーを引くのとほぼ同時。無数のゴム弾が兵士たちをなぎ倒す。


 陣地の反対側では、芽依ちゃんが撃っていた。


 撃たれた兵士たちは、地面の上で苦痛にのたうち回っている。


 痛そうだな……まあ、死ぬよりはマシだと思ってくれ……


 さすがにスケールアーマーで身を固めていた兵士は無事だったが、僕に向かって銃撃をしようとし、撃つ前に芽依ちゃんに羽交い締めにされていた。

 

 羽交い締めにされた兵士は、銃を手放すと背後にいる芽依ちゃんに何か囁いた。


「北村さん。この人やはり隊長です」


 よし! 連行だ。


 と言っても、十メートル上空へ連れて行っただけだが。

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