第350話 ナンモ解放戦線

 僕とPちゃん、ミール、芽依ちゃん、ミク、キラそしてアーニャの七人は町役場へ入っていった。


 馬 美玲とレイホー、ミーチャには潜水艦で待機してもらっていた。


 案内された町長の執務室は、二十畳ぐらいの広さの部屋。床はふかふかの絨毯が敷き詰められている。


「わーい! フカフカ!」


 部屋に入るなり、ミクが絨毯の上を転がり出した。


 やめんか! みっともない!


 慌ててミクの襟首を掴んで、猫のようにつまみ上げた。


「にゃおおおん!」


 猫化するな! ハッ!


 見ると、町長達ロータスの代表者六名が、呆気に取られて僕とミクの様子を見ていた。


「すみません。お見苦しいところを……」

 

 そのまま全員絨毯の上で、車座になって座る。


 ロータスでは……というより、南方ナーモ族の国々では、日本と同じで履き物を脱いで床に座るのが一般的らしい。


 アーニャはカルカ暮らしが長いので慣れているようだが、キラにはちょっと辛いのでないか……と思ったがそうでもなかった。


 キラは胡座どころか、僕にもできない結跏趺坐をしている。ミールの下で修行している間に慣れたのだな。


 全員揃ったところで町長が口を開いた。


「それでは会議を始めます。ただし、時間がないので一時間で打ち切ります」

「異存はありません」


 そう言ったのは、僕ではなくてアーニャ。こういう交渉事は、コミュ障の僕や芽依ちゃんには向かない。


「それではまず、ロータス救援に対する謝礼の件ですが、昨日そちらの方から……」


 そう言って僕を指さす。


「カルカ艦隊への食料補給との事でしたが、それだけでよろしいのでしょうか? もう少し色を付けても……」

「それでは帝国語の分かる奴隷を、何名か付けてもらえますか?」


 奴隷? カルカでは奴隷制度はなかったはず……


「二名でどうでしょう?」

「良いでしょう」


 そう言って、アーニャは僕の方を向く。


「奴隷は、我々に引き渡されると同時に自由の身になります」


 そういう事か。


 アーニャは町長の方を向き直った。


「謝礼の件はそれでいいとして、いくつか聞きたい事があります」

「何でしょう?」

「今日の昼に、盗賊団の侵攻があることはこちらが掴んだ情報ですが、ロータスではかなり前から、盗賊団の侵攻を予測していましたね。どうして分かったのです?」

「我がロータスの諜報機関が、それだけ優秀だという事です」

「本当にそれだけですか?」

「疑うのですか?」

「盗賊団五千がロータスに迫っていることは、我々も偵察ドローンで確認しています。しかし、これだけの大部隊がいきなり攻めてくるとは考えにくい。何か要求を突きつけられて、拒んでいるのではないのですか?」


 ロータス側がざわめいた。


 男性議員らしき男が、町長に詰め寄る。


「町長。やはり何か要求があったのか?」

「それは……」


 町長は言葉に詰まる。


 どうやら、町長も隠していたことがあったようだ。


 アーニャは男性議員の方に話しかける。


「それではあなたにお聞きしますが、我々が盗賊団と言っている武装集団の正式名称はなんですか?」

「確か、ナンモ解放戦線とか言っていたが……」


 ナンモ解放戦線? 

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