第293話 救助か? 掃討か?(天竜過去編)
しかし、映像にノイズが入り、今にも消えそうだ。
「《玄武》の状況はどうなの?」
アーニャの問いかけに馬 美玲が答える。
「分からない。さっきから、船長が何も言ってくれなくて。船体はなんとか持ちこたえたけど、操縦室をやられたかもしれない」
「キャビンは大丈夫なの?」
「分からない。一度、宇宙機とのリンクを切って中の様子を見てくるわ」
馬 美玲のアバターが消えた。
「アーニャ! 助けに行こう」
「待って。
「う」
どうすればいいんだ? どの船も離れている。全部助けに行くのは……
「みんな! 大変!」
敵の宇宙機二機が、ボロボロになったエアバックを切り離しているところだった。
「しぶとい奴め。まだ生きていたのか。よし! 俺がやっつけてやる!」
飛び出そうとした
「待ちなさいよ! デブ! あんなのほっときなさいよ! 救助が先でしょ。馬 美玲を見捨てる気?」
「誰も見捨てるなんて言ってねえ! だが、あいつらを放置すると、救助を妨害されるかもしれない。だから、俺が足止めするから、おまえらはその間に馬 美玲達を助けに行ってこい」
「だ……だったら、最初からそう言いなさいよ。分かったわ。私達は救助に行くから、あんたは奴らが邪魔できないように、その巨体で壁になってやりなさい!」
「おいおい……宇宙機の大きさは、みんな同じだと言ったのはおまえだろ」
「五月蠅いわね。人の上げ足取って、そんなに楽しいの?」
いつもは自分が上げ足取るくせに……
「普通はそんなの事をしても楽しくないが、おまえの場合は楽しい」
「なんですって」
「おっと、こんな事をしている場合じゃない。行ってくるぜ」
「待ちなさい!」
再び、王を呼び止めたのは趙 麗華ではなかった。
「
「止めはしないわ。でも、君一人だけでは足止めにならない。白龍君も一緒に行って」
え? 僕……
「残りのメンバーは《玄武》の救助に向かって。《青竜》と《白虎》も心配だけど、こういう時は生存率の高い者から優先すべきです」
「よし!
敵に向かって加速を開始した僕達に、楊さんが呼びかけてくる。
「二人とも、撃破できなくてもいいわ。足止めできればいいのよ」
そんな事は、僕も王も分かっていた。
その時、僕の横に馬 美玲のアバターが出現する。
「どうだった?」
僕の質問に馬 美玲は首を横にふる。
「ダメ。キャビンの中は真っ暗で、加速が止まっているから無重力状態で……リンクを切って戻ったのに、危なくてGシートから離れる事もできなかった。だがら、母船の状況はさっぱり分からないの。ただ、空気の漏れる音が聞こえて、耳がつーんとしたから、多分気圧はかなり下がっていると思う」
そんな……
「とりあえず、手探りでリンクを繋ぎ直したら、ここに出たの。あんた達は、何をしているの?」
「敵の生き残りがいたんだ。今から、王と迎撃に」
「そっか。でも、二人だけじゃ足りなくない?」
「他のみんなは、《玄武》の救助に向かった」
「そっか。みんな助けに来てくれるんだ」
「当たり前だろ」
「うん。でも……間に合わないかもしれない」
「どうして?」
「みんなが来るまで……キャビンの空気がもたないと思う」
「そんな事……最後まであきらめないで! 必ず……みんなが助けに行くから」
「そうだね。最後まで希望は捨てないことにする」
「本当は僕だって、そっちへ行きたいんだから」
「そっか。でも、敵の生き残りは放置しちゃダメだよ。救助活動しているところへ、砲弾撃ちこまれたらシャレにならないから」
「分かっているよ」
馬 美玲は王の近くに寄って話しかけた。
声は僕にも丸聞こえだけど……
「ねえ、王君。ちょっと聞きたいのだけど?」
「なんだ?」
「趙 麗華の事を、どう思っているの?」
こんな時に……いや、こんな時だからこそ聞きたいのかな?
「どうって? 嫌な女だなと思っているが」
だよね。今更「好き」だなんて言っても手遅れだろうな。
「でも、面白い女だなとも思っている」
「面白いの?」
「おちょくると面白い」
脈なしだな……
「実は趙 麗華が王君の事好きだとしたら?」
ストレートな質問だな。
「そんな事あるわけないだろう」
「そうかな?」
「今時、ツンデレか? ないない。あんなの漫画の中だけの話だ。ツンデレなんて実在したら、だだの迷惑小娘だしな」
「そっか」
馬 美玲は僕の傍に戻ってきて囁いた。
「こりゃあ、ダメみたいだね」
自業自得とはいえ、趙 麗華も可哀そうに……王の事は諦めるしかないな。
「あれ? あれ?」
馬 美玲が慌てだした。
「どうしたの?」
「BMIを強制切断するってメッセージが」
「ええ!?」
「どうやら……もう私ダメみたい」
「そんな!」
「ねえ、章君」
「なに?」
「私も……恋が、したかったな……」
馬 美玲のアバターが消えた。
「そんな……」
王の緊迫した声が聞こえてきたのはその時。
「敵が撃って来たぞ」
レーダーには、こっちへ向ってくる砲弾が映っている。
こっちからも、
「章。今度は、おまえが盾になってくれ」
「え?」
「おまえ、早く救助に行きたいのだろ」
「うん」
僕は王の前に回り込んだ。
「俺は、ここを突破したら残り奴を片付けに行く。お前は予備機を起動させて、馬 美玲を助けに行け」
「分かった」
レーダーの中で敵の砲弾が爆発した。
こっちの砲弾は、着弾までまだ時間がある。
エアバック展開。
「さあ来い!」
砲弾の破片が僕の機体に降り注いできた。
エアバックでは完全に勢いを殺し切れなくて、ホイップルバンパーにガンガン刺さってくる。
程なくして、エアバックは完全につぶれてホイップルバンパーを貫通された。
「王。僕の機体はここまでだ。後は頼む」
「任せておけ」
僕は機体とのリンクを切った。
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