第276話 侵入者(天竜過去編)
彼女は、カプセルの中で意識を失った状態で発見されたらしい。そして、救急隊員が出た直後、エアロック周辺は閉鎖された。
カプセルから微量の放射線が検出されたためらしい。
当然のことながら、野次馬をしていた僕達も被曝した可能性があるため、医療室へ連行され、検査を受ける羽目になったのだ。
「ええ!? 夢であの子を見た」
楊さんが僕の夢の話を聞いて目を丸くしたのは、医療室でホールボディカウンターの順番待ちをしている時の事。
「はっきりと分からないけど、でもあの女の子と似ていた」
「予知夢という奴かしら?」
「楊さん。こんな話、信じるの?」
「少なくとも、白龍君は嘘を付いてはいないと思うわ。でも、人の記憶と言うのは曖昧なのよ。とくに夢の記憶はすぐに消えてしまう。君は初対面の女の子を見て、夢の女の子と同じ顔と思い込んでしまったけど、実際は違う顔だったかもしれない」
「そうかな?」
「でも、やはり予知夢かもしれない」
「どっちなの?」
「分からない。ただ、私は超常現象を完全否定はしない。しかし、超常現象は見間違いや勘違いが多いのも事実。君の見た夢を、予知夢と決めつけない方が良い」
ううん……よく分からない。
「楊 美雨さん。お待たせしました」
看護師に呼ばれて、楊さんは席を立った。
「じゃあ、白龍君。また後で」
やはり、僕の思い違いだったのかな?
よし、夢で見た女の子のイメージを思い出してみよう。
透き通るように肌が白くて、肩の辺りで切りそろえた金髪で、目は青くて……あとは……どんなんだっけ?
あ!
ちょうど今、僕の目の前を通り過ぎた女の子。あんな感じの女の子だった……え?
振り返ると、女の子は通路へ出て行くところだった。
今の女の子?
「章 白龍さん。お待たせしました」
看護師さんが僕を呼びに来た。
「あの……今……」
「さあ、急いでください。後が閊えているのだから」
「いや……でも……」
看護師さんは僕の話に耳など貸さず、僕をホールボディカウンターに押し込める。
検査は五分ほどで終わった。結果は異状なし。しかし僕がホールボディカウンターから出た時、ちょっとした騒ぎになっていた。
病室にいた女の子が、姿を消していたのだ。
だから言ったのに……
「それは酷いわね」
僕は楊さんと並んで、シャトルへ繋がる通路を歩いていた。この通路は、重力制御が利いているので普通に歩けるのだ。
それにしても理不尽だ。
あの後、女の子が通路に出て行った事を看護師さんに話したら、『なんで、その時に言わなかった』と怒られてしまった。
「白龍君は、看護師さんに言おうとしたのに聞いてくれなかったのよね」
「そうだよ。それなのに僕が悪いみたいに……」
「たぶん、その看護師さん。気が付いていたと思うわ」
「え? どういう事?」
「つまりね、『女の子なら通路へ出て行った』と白龍君が看護師さんに言ったときに『あ! この子さっき何か言おうとしていた。ヤバイ! こいつ黙らせないと、私が怒られる』と考えて、白龍君を悪役に仕立てたのよ」
「ひどいよ! そんなの!」
「ひどいわね。でも、そういう汚い大人って多いの。覚えておきなさい」
なんか納得できない。
僕達はシャトルの中に入った。《天竜》には元々、七十人が居住できるスペースがある。
このシャトルは、あぶれた三十人を収容するために作られた。狭いけど、貨物室を間仕切りして個室を確保してもらっている。
惑星に降りることになったら、この間仕切りは取っ払って、座席を付けて百人乗せる事になっていた。
僕の部屋101号室の前で、楊さんと別れた。
部屋の中は、机とベッドがあるだけ。寝に帰るだけの部屋だ。
さて、疲れたし、ひと眠りしよう。
おやすみなさ……ん? なんだ? この暖かくて柔らかい感触は……
「*$%&#+?」
え?
「うわわわ! ごめんなさい! 部屋間違えました」
危ない! 危ない! ベッドの中に女の子が寝ていたよ。僕、逮捕かな? いや……船の中に警察はないか。
……けど、保安部があるし……
ん? 部屋の番号は101。僕の部屋だよな。
じゃあ、ベッドの中にいたのは誰?
「白龍君。どうしたの?」
隣の102号室の扉が開いて、楊さんが出てくる。
「楊さん。僕、逮捕されちゃうのかな?」
「え?」
「ベッドの中に、女の子がいて……」
話を聞いた楊さんは……
「落ち着きなさい。それ白龍君が悪いのじゃないから。その女の子のやっている事の方が不法侵入よ」
「そうなの?」
「とにかく、私が追い出してあげるわ」
楊さんは僕の部屋へ入っていった。僕もその後に続く。楊さんはベッドの毛布をまくり上げる。
「ちょっと、あなたねえ……え?」
え?
そこにいたのは、医療室から姿を消した女の子だった。
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