第263話 三次元の死角
「アクセレレーション」
電磁石弾を投げると同時に、加速機能を起動。
僕はエラの周囲を高速で走り回った。時折ショットガンを撃ちながら……エラからも、ブラズマボールを撃ってくる。
しかし、その速度は遅く、僕は余裕で避けられた。
一方で、僕の撃った散弾もエラに届くことなく、エラを取り巻くプラズマの壁を発生させていく。
前回戦ったとき、僕はとんだ思い違いをしていた。
エラの周囲に発生したプラズマの壁が、ショットガンの散弾を防いでいたと……
冷静に考えれば、そんな事があるはずがない。
高速で飛んでくる金属の固まりを、薄いプラズマの壁で防げるはずがない。
プラズマの壁は、高周波磁場で弾丸が防がれた結果発生したものだったのだ。
しかし、これは本当に高周波磁場なのだろうか?
高速で飛んでくる弾丸を瞬時にプラズマ化するとなると、そうとうのエネルギーが必要だ。磁場の及ぶ範囲も、もっと広範囲になるはず。
ところが、この現象はエラの周囲五メートルにしか及んでいない。
なにか、他の未知の現象では……
「学習しない男だな。私に死角などないというのが、まだ分からんのか」
エラに声をかけられ、思考を中断した。
エラの周囲は、すっかり輝くプラズマの壁に取り囲まれ、エラ本人の姿がはっきりとは見えない。
プラズマの壁は、エラの周囲で高速回転していた。
これは回転する磁場の動きに合わせて、プラズマが動いているからだ。
ということは、高周波磁場は確かに発生している。
ただし、その効果はエラから五メートル離れたところでぷっつり切れていた。原因は分からないが……
「確かに、あんたには死角がない」
僕はマガジンを交換しながら答えた。
「ただし、二次元からはね」
「なに?」
次の瞬間、プラズマの壁が消滅した。
その向こうにいたエラは、首から上がズタズタに引き裂かれ、周囲に鮮血を蒔き散らしている。
そのエラの真上に、ショットガンを構えた芽衣ちゃんが、重力を打ち消して浮かんでいた。
エラの高周波磁場に死角はない。平面で見る限りは……
しかし、真上からなら、回転する磁場の中心軸が見える。
それこそが、エラの死角だったのだ。
僕がエラの周囲を走り回って銃撃を続けたのは、プラズマの壁を発生させて回転する磁場を可視化するため。
磁場の動きが見えるようになったら、上空で待機していた芽衣ちゃんが、回転磁場の中心に銃撃するのが、僕達の立てた作戦だった。
甲板上に芽衣ちゃんが着地すると同時に、エラの遺体は崩れるように倒れた。
「北村さん! やりましたね。作戦成功です」
「ああ。大成功だ」
後は、青エラを同じ方法でやるだけ。
「北村さん! 避けて!」
え?
突然、芽衣ちゃんに身体を押された。
その芽衣ちゃんのロボットスーツから甲高い金属音が響く。
視線を移す……しまった! ドローンが戻ってきている。
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