第245話 女性兵士、謎の行動(過去編)
「失礼します」
芽衣が指令室に入ると、中にいた五人の人間が振り向いた。
五対の視線を浴びて、芽衣はたじろく。
楊 美雨が声をかけた。
「見てもらいたいものがあるのです」
「なんでしょう?」
「帝国軍の女性兵士が一人、さっきから入り口の前に立っているのです」
「女性兵士?」
「何もしないで、立っているだけなのですが」
「軍使でしょうか?」
「それが……見てもらった方が早いですね。メインパネルに映像を」
オペレーターの一人が機器を操作すると、メインパネルにドーム入り口カメラからの映像が表示された。
「これは?」
そこに映っているのは、帝国軍の鎧を纏った少女。歳は十代後半くらい。整った顔立ちの美少女だ。
だが、その姿は出現消滅を繰り返していた。
「分身体!?」
「そうです。あれは人間ではありません。帝国軍にエラ・アレンスキーのような雷魔法使いがいるなら、分身魔法使いもいるかもしれません。あれをドーム内に入れて、破壊工作をするつもりではないかと思うのですが……もしかすると、あれは北村さんの伝令ではないかとも思うのです」
「北村さんの?」
「ドームが帝国軍に囲まれているので、仲間に帝国軍人の姿をさせて派遣したのかもしれません。この少女の顔に、見覚えはないでしょうか?」
芽衣は、少女の顔をじっと見つめた。
「見覚えはありません」
「そうですか」
「でも、北村さんといま同行しているのは、アンドロイドと現地人のはずです。私が知っているのはアンドロイドだけで、現地人の顔は分かりません」
「そうですか。式神使いの女の子なら、同行者を知っているでしょう。ここに、呼んでもらえますか?」
「それが、食事の後、また寝込んでしまって……ター・メ・リックさんが、薬を調合してくれています。それさえ飲めば、すぐに回復できるそうですが……」
「そうですか」
しばらくして、女性兵士は入り口の前から離れていった。結局、その目的は分からず仕舞い。
それから、何事もなく時間が過ぎた。
事態が動き出したのは、正午をかなり過ぎてからの事……
香子の看病をしていた芽衣は、再び指令室に呼び出された。
「ジェットドローンですって?」
廃墟上空に突然現れた三機のジェットドローンが、帝国軍に攻撃を始めたのだ。
協議の末、こちらからも最後のドローンを出すことになった。
北村海斗は、すぐ近くにいるはず。
彼さえドーム入りすれば、事態を打開できる。
祈るような気持ちで、海斗を探し続けた。
そして、ついに見つけたのだが……
「北村さん!」
それは、芽衣が予想していた最悪の状況だった。
黒いロボットスーツと、エラ・アレンスキーが対峙していたのだ。
「北村さん、ダメです! その女と戦っては」
芽衣がいくら叫んでも、その声は届くはずがなかった。
ロボットスーツは加速機能を使い、高速でエラの周囲を走り回っていた。
時折、ショットガンを撃ちながら……
海斗はエラの死角を突こうとしていると、芽衣にはすぐに分かった。
最初にエラと対峙したとき、自分も同じ戦法を考えたからだ。
だが、芽衣はその時戦いを避けた。
それは正解だった。なぜなら……
「その女に、死角はありません! 逃げて! お願い!」
ここで、叫んでも声は届かない。それでも芽衣は、叫ばずにはいられなかった。
芽衣の願も虚しく、海斗はエラの高周波磁場に飛び込んでしまう。
恐らくこの時、海斗は何が起きたのか分からなかっただろう。
高周波磁場に飛び込んだことによって、ロボットスーツの金属部分が加熱され、それによってバッテリーに用いられている超電導物質がクエンチを起こしかけたのだ。
ロボットスーツのコンピューターは、搭乗者を守るために強制パージを行ったのである。
地面に放り出された海斗に、エラが襲い掛かる。
エラの右手が海斗の首に触れた途端、海斗は崩れるように地面に倒れた。
「いやああああ!」
芽衣の悲鳴が、指令室に響き渡った。
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