第234話 迎撃準備(過去編)
そして、数日後の夜。カルカシェルター入り口のドームが、帝国軍二個中隊に包囲された。
数は少ないが、帝国軍はプリンターで作った自動小銃やロケット砲を持っている上に、雷魔法使いエラ・アレンスキーがいた。
対するカルカシェルター側は、《天竜》の地球人たち、ナーモ族、プシダー族、亡命帝国人など入れても人数は百人に満たない。
ドーム入り口の周囲には、ガラクタや瓦礫を積み上げたバリケードが構築されていた。バリケード内では、カルカシェルターで製造した迫撃砲が、いつでも撃てる状態で待機している。
「香子さん、大丈夫ですか?」
芽衣が心配そうな眼差しでそう言ったのは、ドーム内のエレベーターでの事。
ドームの頂上部へ上昇中のゴンドラの中にいるのは、桜色のロボットスーツを装着した芽衣と、香子。そして、楊美雨の娘、レイホー。
「
「それは分かりますけど、香子さんは……」
「病み上がりなんて言ってられない。私も戦うわ」
香子は、レイホーの方を向いた。
「レイホーさん。さっきも言ったけど、そのレーザー銃。引き金を引く以外の事は絶対にしないでね。ビームが出なくなったら、燃料の交換は私がやるから」
だが、レイホーの耳に香子の声は届いていなかった。
「なんでこんな時に……なんでこんな時に……なんでこんな時に……」
しきりに、意味不明な事を呟いている。
「ちょっと、レイホーさん。聞いてる?」
レイホーはハッ! と我に返った。
「あ! ごめんなさい。何でしょう?」
「大丈夫? 何か気になる事でもあるの?」
「実は、今夜うちの店に、素敵なお客さんを招待していたのです。なのに、こんな時に帝国軍が来るなんて……」
「そう。それは残念だったわね。ひょっとして、レイホーさんの好きな人?」
「い……いえ! まだ、会ったばかりで、よく分からないのですけど……」
「どんな人?」
「私が盗賊に襲われているところを、助けてくれた人です」
「恩人なんだ」
「そうなのです。それなのに……ああ、それなのに、すっぽかす様なことして、怒ってないかと……」
「盗賊に襲われている女の子を助けるような漢気ある人なら、そんな小さなことは気にしないわよ」
「そうですよね。でも、今夜おもてなしをしようと、頑張って準備したのに……急にカルカシェルターに呼び出されるなんて……」
芽衣も興味を持って、話に入って来た。
「その人って、ハンサムですか?」
「ええ。最初は顔の分からないヘルメット被って盗賊団に立ち向かっていくものだから、ヘルメットの中身は厳つい顔のおじさんかな? と思っていたのです。ところが、今朝、町中で偶然会ったら、全然イメージと違う優男で、思わず見とれてしまうハンサムさん」
「それは、ますます残念でしたね」
「ただ、女を連れていたのですよね」
「そうでしたか。そうですよね。そんな人なら彼女ぐらい……」
「だからこそ、今夜は是非ともお店に来てもらって、お酒で酔いつぶして、介抱するフリして、逆NТRを……いやいや……そんな事は考えていません」
(考えていたな)
香子はクスっと笑った。
そうしている間に、エレベーターはドームの上に出た。
外は、すっかり夜の闇に包まれている。
ドームの上には直径五メートルの平らな面があり、その周囲は高さ一メートルほどの手すりで囲まれていた。
さっそく、レイホーはPCを立ち上げ、レーダーの画面を表示させた。
一方で香子は、暗視双眼鏡で帝国軍の布陣を探る。
「帝国軍は、青銅砲を用意しているわね。ドームはあんな旧式兵器ではびくともしないけど、バリケードの中にあれを撃ちこまれたら損害が出るわ」
「では、私が……」
「待って、芽衣ちゃん。あなたはここにいて。ドローンを警戒してもらわないと」
「でも……」
「大砲は大丈夫。バリケード内にいる人たちに、電話で大砲の位置を伝えて、迫撃砲で攻撃してもらうわ。芽衣ちゃんはここで、ドローンとエラを警戒して」
「分かりました」
その時、レーダーを監視していたレイホーが叫んだ。
「二時の方向、飛行物体五機接近。距離一万五千」
それを聞いて、芽衣はロボットスーツのバイザーを閉じた。
「では、香子さん。私行ってきます」
「気を付けてね」
「はい。イナーシャルコントロール マイナス二G」
桜色のロボットスーツは、夜の暗闇の中へ飛び去って行った。
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