第231話 偵察任務 (過去編)

 今すぐシーバ城まで行って確かめたい。


 本当に城は爆破されたのか? 海斗は来ているのか?


 思いはつのるが、今の香子にはそんな時間も手段もなかった。


 帝国軍がカルカシェルターのすぐ近くまで迫っていたのだ。


 シェルターの防御態勢を固めるために、カルカシェルターへ物資を輸送するのに使っていたヘリはとうとう燃料がなくなり、砂漠に放置することになってしまっていた。

 

「芽衣ちゃん、なんとかなりそう?」


 シェルター内で、二人に割り当てられた部屋に香子が入った時、芽衣はテーブルの上で古い電子レンジを解体していたところだった。


「ダメでした。マグネトロンを取り出したのですが、壊れていました」


 二人はカルカシェルターの中にあったガラクタで、母船と交信できる通信機が作れないかと悪戦苦闘していたのだ。


「そっか。母船は無理としても、リトル東京と連絡可能な通信機は作れない?」

「カルカの町にいるときに何度か試みたのですが、無理でした」


 香子は、大きくため息をついた。自分が寝込んでいる間に、芽衣はやるべき事をやっていたのだ。


(五年の間に変わったな。この子も……)


 電脳空間サイバースペースにいる時の芽衣は、海斗など問題にならないほどの重度のコミ症。


 地球でデータを取られたオリジナルが、入学以来一度も登校していない、重度の引きこもり女子高生なのだから無理もない。


 勉強はできるが、人と接するのがとにかく苦手だった。


 そんな彼女が、この惑星に降りてから五年の間に随分変わったものだ。


 とくにカルカに来てからは、寝込んでいる香子に変わって様々な交渉ごとをこなしてきた。


「人って、変われば変わるものね」

「何がですか?」


 芽衣は、不思議そうに香子を見つめた。


「なんでもないわ。交信はあきらめるとして、モールス信号でSOSを送れないかしら?」

「どっちにしろ、マグネトロンが手に入らないことには……」

「そっか」  

「レーダーに使っているマグネトロンを、分けてもらえないでしょうか?」

「それは無理よ。帝国軍が攻めてくるというのに、貴重なレーダーを解体できないわ」

「ですよね。でも、レーダー必要なのですか?」

「それがね。今回奴らはドローンを飛ばしているのよ」

「カルルさんが持ち出したカートリッジで作ったのでしょうか?」

「他に考えられないわね」


 その時、インターホンの呼び出し音が鳴った。


 画面に現れたのは楊 美雨。


『ロボットスーツで、偵察に出てもらいたいの。いいかしら?』

「ロボットスーツで? という事は、ドローンでは手に負えない状況になったと考えていいのですか?」

『ええ。ちょっと、この動画を見て』


 インターホンの画面に、砂漠の様子が映っていた。


 ドローンからの空撮映像だ。


 遠くの方にオアシスが見えてくる。


 オアシス周辺を拡大すると、帝国軍の宿営地があるのが分かった。


 しかもその宿営地には、屋根にソーラーパネルのある電動車両が何台も停車している。


「あいつら、プリンターでこんな物まで作ったのね」

『この時、ドローンはレーダー波をキャッチしたの』

「レーダー?」

『帝国軍がそんな物を持っているなんて思っていなくて、高度を上げ過ぎていたわ。急いで、高度を落としてレーダー波から逃れたの。そしたら』


 画面に帝国軍の騎兵隊が映った。人数は十人ほど。騎兵たちは一斉に銃を構えた。


『フリントロック銃ごときで、ドローンは落とせない。そう思っていたわ』


 実際、撃ってきたが弾は当たらない。当たっても、ドローンの装甲を貫けなかった。しかし……


 突然、映像が発光し、直後ブラックアウトした。


「何があったのです?」


 香子の質問に、楊は首を横にふる


『何があったか、分からないから困っているの。ミサイルでも対空砲でもないわ。ただ、ドローンのセンサーがロストする寸前に、一万度の高温を感知したのよ』

「一万度!?」


 香子は芽衣の方へ振り返った。


「芽衣ちゃん。どう思う?」

「レーザー兵器ではないでしょうか?」

『レーザーとも、違うみたいなのよ。ただの故障とも思えないし……』

「分かりました。私が偵察に行ってきます」

「芽衣ちゃん。大丈夫なの? ロボットスーツだって、無敵じゃないのよ」

「大丈夫とは言えませんが、ドローンよりマシだと思います。九九式の装甲は磁性流体とセラミックの複合装甲。レーザーの一発や二発なら耐えられます」


 そう言って、芽衣はカルカシェルターから飛び立った。

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