第224話 砲撃(過去編)
「海斗を、再生させるですって?」
香子の問いに、芽衣は無言でコクッと頷いた。
「なぜ? まさか、私と結婚させるため? 無理よ! プリンターで再生させたって、私と婚約した海斗とは別人なのよ」
「だから、もう一度やり直すのです」
「無理よ! 私と海斗は、この惑星で五年過ごしたのよ。今、プリンターで海斗を作ったら、五歳も年下の海斗が出てきてしまうわ」
「五年ぐらい、いいじゃないですか。姉さん女房ですよ」
「無理無理無理! 私は海斗の好みを知っているの。あいつは、年上の女は苦手なのよ」
「え? そうなのですか」
「そうなの」
「でも、もう母船の方には、頼んでしまいました」
「ええ!?」
「断りますか? まだ、母船の方でも検討中だそうですが」
「ううん……」
断るべきだと香子は思った。婚約者とはいえ、他人を勝手に再生するなど許されるはずがない。
いや、決定するのは
問題は、五歳年上になった自分を、海斗は好きになってくれるだろうか?
芽衣は『五年ぐらい』と言っているが、海斗の姉より年上になってしまう。
そもそも、プリンターで人間を作る事はかなり制限されているはず。
地球上では、よほどのことが無い限り認められない。
太陽系外の惑星上という特殊な条件なので認められただけだ。
それでも、同一人物のコピーは認められていなかったはずだし、故人を再生する事も禁止されていたような気がする。
「芽衣ちゃん、やはりだめよ。死んだ家族や恋人、友人の再生はガイドラインで禁止されていたはず」
「それが、それとは別に、北村さんを再生する必要が出てきたのです」
「どういう事?」
「昨日、リトル東京が攻撃を受けたのですが、その時にロボットスーツ隊から二人の戦死者が出たのです」
「なんですって?」
「欠員を補充する必要が出てきて、それを聞いて私『それなら、北村さんをお願いします』って、お願いしたのです」
「そんな裏ワザを……」
「やはりお断りしましょうか? まだ、母船の方も誰を再生するか決めかねているし」
「いや、待って。決定は、母船に委ねましょう」
断るべき……とは思っていた。しかし、海斗に会いたいという気持ちも強かったのだ。
そして翌日、二機のヘリがリトル東京を目指して飛び立った。
片方は、キャビンに燃料を満載していてパイロット以外の人間は乗っていない。
途中で、その燃料を二機のヘリで分け合ってリトル東京を目指す計画だ。
遠ざかっていくヘリを、香子と芽衣はシーバ城の屋上から見送っていた。
「これで、この城に残った地球人は私達だけですね。香子さん」
「ええ」
香子は一機だけ残ったヘリを振り返った。
五年前にプリンターから出た時はピカピカの機体だったのに、今は弾痕だらけの醜い姿になってしまった。
「私も同じか。五年の間にすっかり擦り切れちゃったな」
自嘲気味に香子が呟いた時、風を切る音が聞こえてきた。
「なに? この音?」
「香子さん! 隠れて! 砲撃です!」
「え?」
屋上に轟音と共に砲弾が落ちた。周囲が粉塵に包まれる。
いつの間にか、帝国軍の砲兵隊が射程内に前進してきたのだ。
「早く飛び立たないと……お客さんは、まだなの?」
ヘリへの荷物の積み込みは終わり、いつでも飛び立てる状態だった。
しかし、王妃と王子がまだ乗り込んでいない。
侍従と女官はすでに乗り込んでいるのに……
「いったい、何をしているの?」
ガン!
金属同士のぶつかる音がした。ヘリに砲弾が当たったようだ。
香子はヘリに乗り込んだ。
「香子様! 今の音は?」
「この乗り物は大丈夫ですか?」
先に乗り込んでいた侍従と女官が不安げな眼差しでこっちを見ている中、香子は機器のチェックをする。
「大丈夫です。どこも壊れていません」
ついでに母船と連絡を取ろうとした。
「……つながらない!?」
香子は外へ飛び出してヘリを見上げた。
「やられた」
「香子さん。どうしたのです?」
「マイクロウェーブをやられたわ。母船と交信できない」
砲弾はヘリの装甲を貫けなかったが、衛星通信用のアンテナを破壊していたのである。
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