第219話 カルカシェルター

「なんで、そんなに嫌なのですか?」


 いや、ミール……そんな悲しそうな目で見られても……


「たかが、入れ墨タトゥーじゃないですか?」

「たかがってな……」


 入れ墨タトゥーなんて入れたら、今後ブールにも銭湯にも行けなくな……ん? この惑星に、そんなものなかったっけ……それなら……いや、やはりよくない。


「ああ! そうか」


 香子は、何かを思い出したかのように言う。


「ミールさん。私達が生きていた時代の日本では、入れ墨タトゥーはヤクザ者が入れるものだったのよ」

「え? そうなのですか?」

「オシャレで入れる人もいたけどね。その代わり、色々と差別を受けたわ。私たちは電脳空間サイバースペースで暮らすうちに、その固定観念はほとんどなくなったけど、生データから作られた海斗には、まだその固定観念が残っているのよ」


 なんか、そういう言われ方すると、僕が頭の古い人間みたいに聞こえるのだけど……まあ、二百年前の人間なのだから仕方ないか。


「だから、入れ墨タトゥーを入れるのは、もう少し待ってあげて」

「それでは、仕方ないですね」


 どうやら、諦めてくれたようだ。


「あんた達!」


 ドームの入り口から、また別の女の声が……


 見ると、そこにいたのは……


「レイホー!?」

「ん?」


 レイホーが僕の方を向いた。


「あいやー! お兄さんじゃないの。ゴメンネ。一昨日は急用で店を空けちゃって」

「いや……それはいいんだけど……」

「それより、あんた達、早くシェルターに入ってくれないと困るね。扉が閉められない」


 そうだった。


 僕達は、大急ぎでカルカシェルターの中に入って行った。


 シェルター内は意外と広い。


 通路も、車が余裕で通れる広さがある。


 ただ、車は徐行せざるを得なかった。


 通路の横幅は広いが天井が低いために、トレーラー上のテントは畳まなくてはならなかったので、そこに人を乗せられない。


 車の後部シートではPちゃんを膝枕にしてダモンさんが横たわり、点滴を受けている。


 助手席にミールが座ると、後は人が乗る余裕がない。


 乗り切れなかった香子は、芽衣ちゃんのロボットスーツにお姫様抱っこで運ばれ、ミクはオボロを召還して、その後ろにミーチャとキラを乗せて車の横を低空飛行。


 レイホーは、スケボーのような板に乗って、僕達を先導していた。


 スケボーとは言ったが、板の下に車輪はなく板が宙に浮いているのだ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』に出てきたホバーボードみたいだ。


 重力制御、あるいはマイスナー効果を利用して浮いているのだろう。


 しばらくの間、緩やかな傾斜が続いていた。


 大きな鉄扉が見えてきたのは、五百メートルほど進んだ時。


 レイホーが扉の横にあるテンキーを操作すると、鉄の扉はゆっくりと開いていく。


 その扉の向こうに、大勢の人達が待ち構えていた。


 そのほとんどが、猫耳ヒューマノイドのナーモ族。トカゲ型異星人のプシダー族もちらほら。それらに混じって東洋系の地球人達がいた。


 《天竜》の人達?

  

 扉が開き切ると、代表者らしき女性が進み出る。


 歳の頃は五十代だろうか?


『カルカシェルターへようこそ。《イサナ》の人達。私は、カルカシェルターの代表者 ヤン 美雨メイユイ。あなた達が来るのを、ずっと待っていた』


 どこかで聞いた名前? あ! 《天竜》との交流会で会った人!

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