第146話 カルカの宿

 カルカの町に到着したのは夕方ごろ。


 先についていたミクが、門の前で頬を膨らまして待っていた。


 ちょっと可哀想だったかな?


「遅いよう」


 文句を言いながらも、後部シートに上り込んでくる。


 そのままPちゃんの膝に頭をつけて横になろうとしたが、Pちゃんにサッと避けられてしまった。


「メイドさん。膝まくら」

「ダメです」

「ケチ」


 後部シートで、そんなやり取りをしている間に車は町へ入っていく。


 町の建物は僕が想像していたものとかなり違っていた。


 ここへ来るまでに通った町や村で見かけた、建築様式とは明らかに違う。


 木材が少ないせいか木造の建物が見当たらない。


 土壁や石造りの建物が目立つ。


 程なくして、ミールたちが泊まっていた宿に到着する。


 ホテルと言ってもいいくらい大きな宿で、駐車場もしっかり完備されていたので僕の車も余裕で止められた。


「師匠。おかえりなさいませ」


 キラが出迎えに出てきた。


「キラ。留守の間、変わったことはなかったかしら?」

「特にありません。ただ、部屋割りの件は、ダメでした」

「どうして?」


 キラは、僕の方にチラっと目をやる。


 なんだ? 部屋が足りなかったのかな?


「未婚の男女を同室にするなど、とんでもないとダモン様が……」


 ミール……僕と同室にするつもりだったのか? いや……そりゃあ、いくらなんでもマズいだろう。


「そんなあ。ダモン様は?」

「まだ、帰ってきていません」


 ミールが僕にしがみついてきた。


「カイトさんも、あたしと同室になりたいのですよね?」

「え? いや……その」

「ダメです。ご主人様は一人部屋です。なお、私は備品として、ご主人様の部屋に泊まります」

「Pちゃん! それはズルいですわ。あなただって未婚女性でしょ」

「私は人間ではありません。ミールさんの言う通りお人形さんですから、部屋のインテリアと思っていただければいいのです。ご主人様、今夜はたっぷりサービスしてあげますね。グフフフ……」


 な……何のサービスだ? 今夜は車の中で寝ようかな……


「そんなエロいインテリアがあるかあ!」

「ミール。こんなところで何を騒いでいる?」


 ダモンさんが戻ってきたのは、ちょうどその時だった。


「ダモン様すみません。つい」

「部屋割りの件なら、キラに言ったとおりだ」

「そんなあ」


 ダモンさんが、こんな事をしたのは単なる倫理観ではなさそうだな。


 やはり……


 不意にダモンさんが僕の近くまで来て囁いた。


「話がある。食事の後で付き合ってくれ。くれぐれも、女子たちに気づかれぬように」

「はあ……」


 そして、食事の後、僕はこっそり宿を抜け出してダモンさんと町へ繰り出した。

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