第127話 交流会
『では、再生を再開する』
場面はパーティ会場に移っていた。
数々の料理がテーブルに並べられている。
僕もカルルも香子も、会場にいる皆も杯を持ってテーブルを囲んで立っていた。
「《イサナ》と《天竜》の出会いを祝ってカンパーイ!」
森田船長の音頭で乾杯となった。
「狡いなあ、大人だけ。あたしは、いつになったらお酒が飲めるの?」
子供の声に目を向けた。浴衣姿の女の子がそこにいる。
綾小路未来!?
そうか、この子もこの船に乗っていたんだな。
僕の視線に気が付くと、綾小路未来はくるっと一回転して……
「ねえねえ。お兄ちゃん、この浴衣姿可愛いでしょ」
「ああ……可愛いよ」
「なんか、取って付けたような返事」
「そ……そんな事はないぞ」
カルルが横から手を伸ばして、綾小路未来の頭を撫でた。
「可愛いぞ。ミク」
「カルルに聞いてないもん」
「ヒドイな。その浴衣、誰がデザインしてやったと思ってるんだ」
僕は周囲を見回していた。
僕の意志で動いているわけではないが、なんとなく
人目に付かないところだな。
僕の目はカーテンに止まった。
あの裏に隠れていようとか考えているな。
僕はさりげなく、カーテンの方へ歩み寄っていく。途中、料理と酒の確保は忘れない。
カーテンの裏にさり気なく入った。
宴会が終わるまで、ここにいるつもりだな。
「あの……すみません。入ってます」
背後から、か細い女の声。
振り向くと、大きなメガネをかけた十代後半ぐらいの女の子が、カーテンの裏に先に入っていた。
「ひ!」
思わず、声を上げそうになった僕の口を、彼女の手が塞いだ。
『紹介しておこう。彼女は船長の娘で
人の事言えるか!
「君は、船長の……」
「すみません! すみません! 私、こういうの苦手で……でも、父に行けと言われて仕方なく……でも、やっぱり辛いので、ここに隠れていたのです」
「そうか。僕も苦手なんだ。一緒に隠れていていいかな? 迷惑なら他の場所を探すけど……」
「いえ……迷惑なんて事は……北村さんとでしたら……むしろ……一緒に……」
「え?」
「いえ……その……あ! お饅頭ありますけど、いかがですか?」
彼女の差し出した小さな皿の上で、小さな饅頭がホコホコと湯気を立てていた。
「ありがとう。僕も唐揚げ取って来たんだけど、どうかな?」
「わあ! 唐揚げ大好きです」
「じゃあ、時間まで、ここで二人だけの宴会でもしてようか」
「はい」
だが、その目論見は長く続かなかった。
突然カーテンが開かれたのだ。
「お兄ちゃん。何、かくれんぼしているの?」
カーテンを開いたのは綾小路未来。その背後で香子が仁王立ちになっている。
「海斗。それに芽衣ちゃん。こんなところに隠れていないで、少しは人と交流しなさいよ」
「こ……交流しています。北村さんと」「交流しているぞ。芽衣ちゃんと」
「こういうのは、交流とは言わないの。カルルを少しは見習って……」
香子の指差す先で、カルルが《天竜》の中華娘をナンパしてはフラれまくっていた。
「香子姉ちゃん。カルルじゃ、お手本にならないよ」
「まったく」
「それにさ、お兄ちゃんが《天竜》の女の子をナンパしちゃってもいいの?」
「それは大丈夫。海斗には、自分から知らない女の子に声をかける度胸はないから」
悪かったな。
カルルをふった中華娘の一人がこっちを向いた。中華娘がこっちへやってきて僕に挨拶をする。
「初めまして。私、
「どうも、北村 海斗と申します」
綾小路未来が香子の袖を引っ張る。
「お兄ちゃん、逆ナンされているよ」
「しまった! その危険を、忘れていたわ」
香子は僕の左腕にしがみ付いてきた。
「初めまして。私は海斗の彼女で鹿取香子と申します」
『言っておくが、僕と香子はそういう関係になっていない。この時点では……』
これ、本当に録音か?
「なんだ、彼女いたのか。二人も……」
そう言って、楊 美雨は去っていく。
「二人も?」
香子の視線は、僕の右腕にしがみ付いている女性に向いた。
「海斗……この女は誰?」
香子は声に、怒気を含んでいた。
「ええっと……」
また、再生が止まった。
『一応説明しておこう。生データから再生された君なら、あるいは思い出せたかもしれないが、僕はこの時点で彼女が誰か思い出せなくて、すっかり気が動転していた』
で、誰なんだ? 確かに見た覚えが……まさか!?
『彼女は
高校時代の彼女!?
『彼女がデータを取られたのは二十五になってからだ。だから、すぐには分からなくても無理はない』
しかし、なんで、彼女までこの船に?
『なお。この後は見るのが怖いから、再生を数分だけ早送りする』
おい……
再生が再開した。
香子と月菜が睨み合っているのを、僕はおろおろと止めようとしているところだった。
いや……ここも早送りしろよ……
ん? 裾を引っ張られた。
振り向くと、綾小路未来が僕の裾を掴んでいる。
「お兄ちゃん。女の戦いに、男は口出し無用だよ」
「いや……しかし」
その時、綾小路未来の背後から十二~三歳ぐらいの、顔だちの整った男の子が近づいてきた。
「あの」
男の子に声をかけられて、綾小路未来は振り向く。
「こんにちは。僕は
男の子は、流暢な日本語で挨拶した。
「こんにちは。あたし、綾小路未来でーす。よろしくね」
「あの……お願いがあります」
男の子は顔を真っ赤にしている。
「
「ええ!?」
「《イサナ》は《天竜》より六年遅れて到着するそうですね。僕、六年間待ちます。向こうの惑星で再会したら、僕と結婚して下さい」
「えええええ! お兄ちゃん……どうしよう?」
「いい話じゃないか。OKしちゃえよ」
「他人事だと思ってえ……あのねえ、白龍君。気持ちは嬉しいけど、あたしまだ十二歳だしい……お友達でいましょ」
ああ! その言い方は……
「そ……そうですか」
可哀そうな白龍君。そんなに気を落とすなよ。
船長が宴の終了を告げたのは、その時だった。
『《イサナ》と《天竜》は、タウ・セチでの再会を約束して別れたんだ』
《天竜》の乗員たちが手を振りながら、一人ずつ消えて行った。
『だけど、《イサナ》がタウ・セチに到着したときには、《天竜》の姿はどこにもなかった』
僕の声は、どこか悲しそうだった。
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