第125話 ブレインレター1

 なぜ、カルルがこんなところに……


 しかし、敵意を感じない。


「海斗。ダメじゃないか。船外活動するなら、宇宙服を着ないと」


 そう言ってるカルルの服装は、半袖アロハにバミューダパンツ……


「人の事を言えるか!」


 え? なんだ? 今のは、僕のセリフなのか? でも、僕はそんな事を言おうとしていないぞ。


「ワハハ! 仮想現実バーチャルリアリティの世界なんだから、んな事関係ないよな」


 仮想現実バーチャルリアリティ? じゃあ僕が今、見ているのは……


 よく見ると、僕もカルルも宇宙空間に漂っているわけではない。


 銀色に輝く、金属の床の上に立っている。


 これって、宇宙船の一部?


「一度、人に言ってみたかっただけだよ。前に宇宙服の事で、香子にこっぴどく怒られたことがあってな」

「何があったんだ?」

「香子が同人誌に書いていた小説に、俺がイラスト付けていた事は前に話したよな」

「ああ」


 いや『ああ』じゃない。初耳だぞ。


 香子が同人誌出している事は知っていたが、読んだことなかったし……


 いや、読んでみたい気持ちもあったけど、もしBLだったら気まずくなるし……


 それより、カルルがイラストレイターだったって? 全然そんな文化的なイメージじゃないなあ。


「香子が書いている宇宙戦争の話に、主人公が宇宙に出て船の修理をするシーンがあったんだ。その時に俺、主人公を宇宙服ではなくて普段着で描いたら、あいつ激怒したんだよ」


 どうやら、BLではないようだ。


「そりゃあ怒るだろう。香子ってリケ女だからな」

「そうなのか? とにかくあいつ科学考証への拘りが異常なんだよ。他の同人作家の小説を読んで『宇宙なのに無重力の描写がない』とか『宇宙ステーションの壁をぶち破ってロボットが飛び込んできたのに、何で空気が漏れないのよ!?』とか言って、喧嘩になった事もあって……あんとき、俺が止めなかったら、暴力沙汰になりかねなかった」

「いや、宇宙を舞台にした話を書いている奴が、そういうところで、手抜きしちゃダメだろう」

「小説なんて読んで面白ければ、それでいいだろ。科学考証なんて誰も気にしないと思うが……」

「僕は気にするが」

「俺は気にしない」

「気にしろよ」

「だって、実際には俺達こうやって普段着で宇宙に出て、船の故障個所探しているじゃん」

「いや、今の僕らは宇宙空間にいるように見えるが、実体は電脳空間サイバースペース内のデータに過ぎない。この宇宙空間も宇宙船外へ出たプロープのセンサーが拾ったデータを元に構成しているだけ」


 電脳空間サイバースペース!? それじゃあ、今僕は電脳空間サイバースペースにいるのか? しかし、それは良いとしても、僕の身体が僕の思い通りに動かないのはどういう事だ?


 それに、なんで僕はこんなにカルルと仲良く話をしているんだ?

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