第119話 ひざ枕

「まったく、人騒がせな隕石だ」


 鮭鮫鱈鯉さけさめたらこいシステムが解除された時には、周辺はすっかり明るくなっていた。


 酔いもすっかり醒めていたのだが……眠い……前回、反省文は百枚だったのだが、今回は五百枚も書かされた。


 なんでも、回数が増えるごとに反省文の数が増えるらしい。


「ご主人様。荷物積み込みました。出発して下さい」

「ん……分かった……うとうと……」


「カイトさん。カイトさん」


 ミールに腕を引っ張られて、目が覚めた。

 

 やべ……居眠りしていた。

 

「眠いのですか?」

「うん……かなり……」

「あたしが、運転しましょうか?」

「ああ……それじゃあ……頼む……わけないだろ! ミールには、運転できないだろ」

「大丈夫ですよ。あたし横で見ていて覚えましたから」

「だああぁぁぁだめ! だめ! 車の運転は危険なんだから……シロートがやったら事故起こす」

「そんな事ありません」

「ご主人様。試にミールさんに運転させてみませんか?」

「Pちゃんまで、何を言ってるんだよ? 危ないだろ」

「大丈夫です。ミールさんが運転席に座っても、事故は絶対に起きません」


 なぜ、そう自信たっぷりに言える?


 試にミールと席を代わってみた。


「これが、スタートボタンでしたね」


 ミールがボタンを押すと、メインモニターに『システム起動中』と表示。


 突然、警報アラームが鳴り響いた。


 メインモニターに新たなメッセージ。『警告。子供が運転席に乗っています。機能をロックしました。直ちに大人と交代して下さい』


 そういう事か。


「なんなのですか? これは!」

「子供が、運転席に座ると、こうなるのですよ。だから、絶対に事故は起きないと言ったのです」

「意地悪な、お人形さんですね」

「ほめ言葉と取っておきましょう」


 鮭鮫鱈鯉システムと違って、今回の機能ロックはすぐに解除された。


 しかし……-僕がスタートボタンを押しても、やはり警報アラームが鳴り響く。


 なんで? 酒気はもう抜けているはずなのに……

 

 メインモニターを見ると別のメッセージが表示されていた。『警告。運転手に眠気が貯まっています。仮眠を取ってください』


 誰のせいで眠気が貯まっていると思ってるんだ!


「ご主人様。眠いのですか?」

「だから、そう言っているのだけど……」

「しょうがないですね。では、十五分ほど仮眠を取ってから出発しましょう」

「十五分だけ?」

「仮眠は十五分ぐらいが、丁度いいのです。それ以上寝ると、本格的な睡眠に入り、起きられなくなりますよ。さあ、後部シートに移って下さい。私のひざ枕をお貸ししましょう」

「カイトさん。ひざ枕なら、あたしのを……」

「ミールさん。その分身体で、そういう事はやらない方がいいですよ」

「なぜですか?」

「ご主人様は変態ケモナーですが、今のところ幼女趣味はありません。しかし、その分身体で、そういう事をすると、幼女趣味に目覚める危険があります」


 いや……目覚めないから……


「そ……それは困ります。仕方ない、カイトさんにひざ枕をする権利、今回はPちゃんに譲ります。でも、カイトさん」


 ミールが睨みつけてきた。


「な……なに?」

「Pちゃんに、エッチな事しては、ダメですよ」

「しない! しない!」


 第一、ロボットにそんな事をしては、人として何かが終わるような気がするし……


「私は、一向にかまいませんよ。ロボットですから、何をされても気にしません。さあ、ご主人様。どうぞ、私のひざの上で、欲望の赴くままに……うふふふ……」

「ダメー! Pちゃんの目、なんかエロい!」

「ミールさん。ロボットに性欲などありませんから、心配ありませんよ。さあ、ご主人様。気になさらないで、私のひざ枕に……たっぷりと、サービスして差し上げますから……ぐふふふふ」


 な……なんの、サービスをするんだ!?


 



 結局、仮眠はテントの中で取った。

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