第66話 あいつ、生きていたのか?

『こっちへ来るんだ』


 ダモンさんに引きずられるように、ミールの分身たちは石壁に囲まれた通路を進んでいた。


 その様子を、僕らは分身に待たせたカメラを通してPC画面で見ている。


 途中、他の兵士とすれ違うが、咎められる事はなかった。


 やがて、一つの部屋にダモンさんは入る。


『おまえ達、ミールの分身だな?』


 肉眼で分身を見破れるのか?

 やはり、凄い人なんだな。


『そうです。やはり、分かりましたか』

『気を付けろ。この城には、分身を見破る装置を持っている者がいる。特にネクラーソフ将軍に近づくと、必ずチェックされるぞ』


 ここにも、カルル・エステスが来ていたのか。


『ミール。なんの目的で、分身を送り込んできた?』


 ミールは分身を通して経緯を話した。


『そうだったか。それにしても、大変だったらしいな。まさか、ミケ村が襲撃されるとは……よく、奴らの手を逃れられたものだな』

『ミケ村襲撃の件、ご存じだったのですか?』

『ああ。その件に関しては、本当に申し訳ない事をした』

『どういう事です? まさか、ダモン様があたしの居場所を?』


 ダモンさんは無言で頷く。


『なぜ、そんな事を?』

『そちらに、キラ・ガルキナという娘が行かなかったか?』

『来ましたけど……分身を暴走させられて、苦労しましたよ』

『そっちでも、暴走させていたか。実は城の中でも分身を暴走させていてな、ネクラーソフも困っていたらしい。しかし、キラ・ガルキナは皇帝の姪に当たるので迂闊に扱えない。だから、ネクラーソフに頼まれたのだ。分身魔法のエキスパートを紹介してくれと。私はキラ・ガルキナ一人で行かせる事を条件に、彼女だけに君の居場所を教えた。もちろん君への紹介状も書いた』


『じゃあ、なぜ帝国軍が村に?』

『それが、あのバカ娘。ナーモ族に頭を下げるのはプライドが許さないと言って、君の居場所をネクラーソフに話し、君を拉致してくるように頼んだのだ。ネクラーソフも最初は私との約束があるからと渋ったが、皇帝の姪の頼みでは断れなくて……』





「ご主人様。今の話、聞きましたか?」


 Pちゃんは、咎めるように言う。


「ああ……ちょっと、聞き逃しちゃったかな……」

「聞こえなかったふりしないで下さい。ご主人様が命を助けた女は、そういう性悪女だったのですよ」


 んなこと言ったって……やっぱり、美女は殺しにくいよ……


「Pちゃん、カイトさんの事を責めないであげて。カイトさんは優しいから、性悪女に騙されてしまうのですわ。だから、これからはミールがカイトさんの近くにいて、守ってあげますわ」

「ミールさん。あなたが一番性悪です」

「性悪な、お人形さんに言われたくありません」


 二人とも、性格悪いよ。


 おっと! PC画面の向こうでダモンさんが怪訝な顔をしている。





『ミール? どうした? なぜ黙っている?』

「いけない! ダモン様の事を忘れていました」





『すみません。こっちでちょっと、ごたついていて分身の操作を怠っていました』

『そうだったか。とにかく、そんなわけで、帝国軍がミケ村に向かい、翌日には君を捕えたという報告が届いた。ところが、それ以後は、まったく音沙汰なし。ネクラーソフは厄介払いも兼ねて、キラ・ガルキナに様子を見に行かせたのだ』

『それで、あの女が来たのですね』

『ところが、その後も連絡はまったく来ない。いったい何があったのだ?』

『村に来た帝国軍は全滅しました。いえ、あたし達がやったのです』

『なんだって?』


 ミールは僕と出会った経緯を話した。


『そうか。日本人が協力してくれたのか』

『ダモン様。どうでしょう? あたし達と一緒に、城を抜け出しませんか?』

『うむ。素敵な申し出だが、今は遠慮をしておこう』

『どうしてですか?』

『城を抜け出すのは簡単だ。だが、その後は追手に追われ続ける事になる。君たちは気づかれないように通り過ぎたいのだろう。私がここを抜けて君たちに合流したら、君たちの存在に気付いた帝国軍に、君たちは追い回されることになる』

『そうですか』

『なに。今のところ帝国軍の待遇は悪くない。それに今は、ネクラーソフを説得しているところだ。魔法のレクチャーを受けたかったら、私が魔法使いを紹介してやるから、侵略行為はやめろと。奴もなかなか話の分かる奴でな、皇帝に意見具申してみると言ってくれている。たがら、今は私がここに留まっていた方がいい』





 ネクラーソフって名前と裏腹に、性格は悪くないみたいだな。





『いかん! 誰か来たようだ。早く分身を消してくれ』

『はい。お手数ですが、憑代を隠してください』

『分かった』


 


 PC画面が大きく揺れる。


 分身が消えたので床に落ちたのだ。


『変わった憑代だな?』


 ちなみ、マイクとカメラも憑代につけてある。


 ダモンさんが拾い上げたのか、映像がまた大きく動く。


 ガサゴソと言う音と同時に映像が真っ暗になった。


 どうやら、ポケットに隠したようだ。


 ドアの開く音がする。


『失礼します』


 若い男の声が聞こえてきた。


『どうかしたかね?』

『ミケ村に遠征していた、ダサエフ大尉が先ほど帰還しました。将軍閣下はダモン様にご足労いただき、大尉の証言を吟味していただきたいとのことです』


 ダサエフ!? あいつ、生きていたのか?

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