第62話 オペレーション ツツモタセ
「カイトさん。うじゃうじゃいますねえ」
「いるねえ」
お昼頃、僕らはテントに集まって打ち合わせをしていた。
「ご主人様。一人見つけたら、三十人はいると覚悟した方がよろしいかと」
何が、いるかって? もちろん、ゴキブリなんかではなく帝国軍だよ。
電力不足で、しばらく飛ばせなかったドローンを飛ばしてみたら、かなり近いところに帝国軍の大部隊がいたのだ。
近いと言っても十キロぐらいは離れているが、それでも偵察部隊がいつ来てもおかしくないぐらいの距離。しかも、これから進む道はそこへ向っている。
数は八千~一万ほど。一個師団だな。
ダサエフの部隊が百人ぐらいだから、その百倍。
ゴキブリより酷い……
「しかも、あたしの元職場ですよ」
ミールが、かつて仕えていた王家の城だ。
一か月前、ミールは命からがら、ここから逃げ出した。
その後、城は帝国軍に占領されたのだ。
なら、帝国軍がここにいるのは最初から分かっていたのではないかっていうと、実はそうなのだが、この地点はどうしても避けては通れない場所なのだ。
交通網が整備されている地球と違って、この惑星では車がまともに走れる道路が限れている。塩湖とか砂漠とか草原なら、どこを走ってもいいが、この辺りは森林地帯が多い。
道のないところは通れない。
実際、塩湖を出た後は、大きな段差や川に行く手を阻まれたり、森の中で道が狭くなり、バックで引き返したなんて事が何度かあった。
ミールは森の中の道を熟知していたので、そういう道を回避できたのだが、それでも城の近くを通らないで済む道はなかった。
いや、むしろそういう交通の要衝だから城が作られたのだろう。
「気づかれないで通り過ぎれるルートはないかな?」
折り畳みテーブルの上に広げた航空写真の一か所をミールが指差した。
「一か所あります」
ミールの指し示した道は、城から七キロ南を通り過ぎていた。
しかし、大きな建物が途中にある。
「ただ、ここにナーモ族の使っていた関所があります。ここに、帝国軍がいないという保証はありません」
ドローンを偵察に向けると、帝国兵が十人ほど詰めていた。
「十人か。これなら、僕のロボットスーツとミールの分身魔法でなんとかできるね」
「ご主人様。問題があります。確かに、関所を落とすのは容易いですが、関所が落ちた事を帝国軍本隊に知られるわけにはいきません。知られたら、追撃を差し向けてくるでしょう」
「つまり、やるとなったら、また皆殺しにするしかないか」
気が重いな。
「それだけじゃありません。いずれ、ここに交代要員がやってきます。その時に、ここで起きたことが知られたら、やはり追撃がきます」
となると、交代のあった直後を狙い、次の交代までの時間を稼ぐしかないな。
「よし、交代のパターンが分かるまで、偵察を続けよう」
「うっふーん! お兄さん、遊んでいきません」
雨の降る中、桃色の傘をさして立ってる娼婦に呼び止められた二人の騎兵は、立ち止まって互いの顔を見合わせた。
牽制し合っているようだ。
どちらも。本音では娼婦の誘いに乗りたい。
しかし、自分だけ行ったら同僚に密告される。
「おまえ、どうする?」
「貴殿こそ」
「我々は二人だ。女が一人では……」
「あら、大丈夫ですよ。奥に可愛い娘がいっぱいいますから」
「本当か?」「いくらだ?」
兜を被っているので、表情は分からないが、兜の覗き穴からわずかに見える兵士たちの目は、すっかりスケベ色に染まっていた。
「しかし、我々は偵察任務中だし……時間までに城に戻らないと……」
「こうしよう。我々は偵察中、反帝国分子を発見した。しばらく追跡をしたが逃げられてしまった。と、報告するのだ」
「うむ、そうするか」
『おぬしもワルのよのう』のノリだ。
兵士たちは、馬を下りて娼婦に歩み寄る。
「で、我々はどこに行けばいい?」
「こっちですよ」
娼婦に案内されて兵士たちは小屋に中に入ってくる。
だが、女の子はいなかった。
ただ、小屋ののぞき穴から、一部始終を見ていた僕がロボットスーツを着て待ち構えていたのだ。
言うまでもないが、娼婦はミールの作った分身。
「ブースト」
以上、
僕に殴り倒された二人の兵士よ。
据え膳食わぬは男の恥だが役に立つという事を、覚えておくがいい。
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