第48話 命乞いする者

 僕は兵士たちに、さっきの女から奪った自動小銃カラシニコフを向けた。


 もはや、なんの感情も沸いてこない。


 ただ、汚らしい害虫をつぶすのような気分で、僕は引き金を引いた。


 一人の兵士が吹っ飛ぶ。


「おのれ!」


 もう一人の兵士が、抜刀して切りかかってきた。


 数歩も行かないうちに、兵士は銃撃でズタズタになる。


「うわわわ!」


 最後の一人は、腰を抜かして地面にへたり込んでいた。


「た……助けてくれ」


 今更、命乞い?


「お願いだ! 殺さないでくれ」

「ナーモ族も、そう言っていたはずだ」

「……」

「君は、命乞いをするナーモ族に何をした?」

「こ……殺した」

「命乞いする者を冷酷に殺しておいて、自分の命乞いは聞いてもらえるとでも思っているのか?」

「命令だったんだ。仕方なかったんだ。頼む。俺は……死にたくない……」


 見苦しい……


「だめだ。僕はナーモ族を助けたい。君らが虐殺をやめて、今すぐ国へ帰って、ここへは二度と来ないならいいけど、できないだろ? だったら、君たちを皆殺しにするしかないじゃないか」

「許してくれ」

「許されると思っているのか? 平和に暮らしているナーモ族の土地に、一方的に攻め込んだのはお前たちだ。そんな事をした以上、逆襲されて殺される覚悟はしていただろ?」

「逆襲されるなんて、思ってなかった」

「それは、お前がバカなだけだ」

「悪かった。ナーモ族は、もう殺さない」

「それを僕に信じろと? それに虐殺は、軍の命令だろ? 逆らえないだろ?」

「今から、軍隊を脱走する」

「神に逆らう事に、なるんじゃないのかい?」

「神など知るか! あんたは知らないだろうけどな、嘘でも神を信仰しているふりをしないと、帝国では生きていけないんだよ」


 なんだ。みんなが、みんな狂信者というわけじゃなかったのか……


「だから、お願いだ。助けてくれ」

「ふん」


 僕は銃を道端に捨てた。


 そのまま、兵士に背を向けて歩き出す。


 十歩も行かないうちに、背後でカチャリという音がした。


 やはり、やったか。


 やらなければ、見逃そうかとも思ったのに……


 振り向くと、兵士は僕の捨てた自動小銃カラシニコフを構えていた。


 引き金は、完全に引いている。


「弾の残っている銃を、捨てるとでも思っていたのか?」

「うわわ!」


 兵士は銃を捨て、剣を抜いて向かってきた。


「ブースト」


 僕の放ったパンチは、兜ごと兵士の頭を打ち砕いた。





 殺しへの抵抗が無くなってきたと思ったけど、いざやってみると、やはり嫌なものだ。


 ドローンで狙撃していた時は、まだどこかゲームのような感覚でいた。


 だが、今度は違う。


 自分の手で、生きてる人間の頭を砕いたのだ。


 ドローン越しにやった事とは、まるで感覚が違う。


 


 帝国兵が神にすがりたくなる気持ちも、少しは分かるような気がしてきた。


 神のためにやった事と思えば、どれほど気が楽になるか。


 


『ご主人様。聞こえますか?』


 通信機から響くPちゃんの声で我に返った。


「聞こえる。どうした?」

『どうしたじゃないですよ。敵を倒してから、一分近く何もしないで立ち止まっていたのですよ。戦場で茫然としていたら命取りになります』

「そ……そうか」

『大丈夫ですか? これ以上、戦えないようなら引き返してください』

「大丈夫だよ。祈っていただけだ」

『祈り?』

「五人も人を殺したんだ。供養してやらないと」

『そういう事でしたか』


 いや、嘘だけど……


 でも、供養はしておいた方がいいな。


 五人を殺したのは僕の判断。


 その責任を、神に押し付ける気はない。


 それでも、魂の救済を祈れば少しは気が楽になるかもしれない。


 


 本来なら、穴を掘って埋めてやるべきだが、今はそんな時間がない。


 とりあえず、死体を一列に並べて、手を合わせた。

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