第46話 怪しい奴
まずいな。
バイザーに、ドローンからのデータを表示させてみたところ、屋敷を出た赤外線源が五つ、ナーモ族のいるところへ向かっている。
この速度だと、僕より先に到着する。
最短コースを取れば先回りできるが、途中には八つの赤外線源が。
迂回していたら間に合わない。
強硬突破するか。
茂みをかき分け、最短コースに入った。
途中、ちょっとした崖を登り、小川を飛び越え問題の場所に到着した。
なんだ。
赤外線源は、馬だったのか。
杭に繋がれた馬が七頭いる……七頭? 一頭少ない!
「動くな! そこの怪しい奴!」
背後から、かん高い声で呼び止められた。
ちちい……人間も一人いたのか。
「怪しい奴? どこだ! どこにいるんだ」
周囲をキョロキョロ見回す。
「お前だ。お前」
その時、初めて声の主を見た。
女性兵士?
鎧は着けていたが、兜は被っていないので二十歳前後のブロンド髪の女だとわかった。
女は銃を僕に向けている。
「ちょっと待ってくれ。僕は決して怪しい奴ではない」
「ふざけるな! その姿のどこが怪しくないというのだ!」
ううむ……確かにロボットスーツ姿って怪しいよね。
しかし、困った。人殺しに抵抗はなくなってきたが、やはり相手が女だとやりにくい。
「悪いけど、先を急いでるんだ。また、今度にしてくれないかな」
「そうか。それでは仕方ないな」
女は、銃を下ろした。
「ありがとう、それじゃあ。また」
女に、手を振りながら通り過ぎようとした。
「んなわけあるかあ!」
やっぱし!
銃声が響く。
背中に衝撃。
『銃撃を受けました。第一層貫通されました。第二層で食い止めました』
「その銃は?」
振り向くと女は、まだ銃を構えていた。
「外れたか? 運のいい奴め」
外れたと思ってるのか? 直撃だったぞ。
「おっと、一発撃ったから、もう弾がないと思うなよ。これはAK47と言って連射可能な銃だ」
「カラシニコフだと?」
よく見ると、湾曲した弾倉が着いてる自動小銃だ。
なんでこの女、こんな近代的な武器を持っているんだ?
「ほう。カラシニコフという愛称を知っているか。これは皇帝陛下より賜った特製の銃だ」
まだ、マテリアルカートリッジが残っている時に作った物が残っていたのだろうか?
まずいな。さっきは、第二層で食い止めたけど、こんな至近距離でカラシニコフの連射なんか食らったら
「分かった。降参する」
僕は両手を上げた。
「潔いな。では、その変な鎧を脱げ」
待ってました。
「複雑な鎧なので脱ぐのに手間がかかる。まず、背嚢から外すが、大きな音がするけど驚いて撃たないでくれよ」
「いいから、早くしろ」
「バッテリーパージ」
外部電源が外れて、ゴトっと音を立てて地面に落ちる。
「大して大きな音ではないではないか。このぐらい驚くか」
残時間 三百秒。
「アクセレレーション」
「え?」
次の瞬間、僕は彼女のカラシニコフを奪い取っていた。
「い……いつの間に……?」
「今度は、驚いたかい?」
「おのれ!」
彼女は眼にも止まらぬ速さで拳銃を抜いた。
『銃撃を受けました。貫通なし、損傷なし』
ガッ。
拳銃を叩き落として、彼女を抱え上げた。
残時間 二百九十秒
「放せ! 私をどうする気だ?」
「水浴びでも、しててくれ」
さっき飛び越えた小川まで引き換えし、彼女を投げ込んだ。
溺れるような深さじゃないから大丈夫だろ。
残時間 二百八十秒
「覚えていろ! 私を殺さなかった事を、必ず後悔させてやる」
「すまん。僕は忘れっぽいんだ。それに、君のような美女を殺した方が、後悔すると思う」
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