第33話 侵略者は、おまえらだろ……

 結跏趺坐けっかふざしたミールが呪文を唱える。


 そこまでは、さっきミールが自分の分身を作った時と同じだった。


 違うのは、縛られて地面に転がされているドロノフが光り出した事。


 しばらくして、もう一人のドロノフが現れた。


「ひょっとして、僕の分身も作れるの?」

「ええ、できますよ。作りますか?」

「いや、いい」


 僕はドロノフの分身から、猿ぐつわを外した。


「ドロノフ。質問に答えてくれるか?」

「なんなりと」


 隣で、猿ぐつわをされている本物が『うう! うう!』とうなり声を上げている。


「今、村に帝国軍は何人いる?」

「一個中隊、百人ほどです」

「司令官は?」

「ダサエフ大尉」  


 僕はドロノフを縛っていた縄をほどき、テーブルの前に立たせた。


 テーブルの上には、さっきドローンで撮影したばかりの、村の航空写真が広げてある。


 まだ、かなりの建物が焼け残っていた。


 ドロノフに、マジックペンを持たせる。


「分かる限りでいいから、食糧、武器、弾薬の置き場所。人員の配置を書き込んでくれ」

「お安いご用です」


 本物のドロノフが、さらに大きな唸り声を上げる。


「静かになさい。分身を作った以上、お前はもう用済みです。このまま殺してもいいのですよ」


 ミールに脇腹を蹴られて大人しくなった。


「殺すのはよそうよ。後味が悪いから」

「はーい」


 でも、この娘も戦場にいたって事は、人を殺した事あるんだろうな。


 いや、僕だってさっきの戦いで死者は出ていないけど、重症を負わせた兵士はこの後で死ぬかもしれないし、川に投げ込んだ奴らは溺れたかも……


 しばらく、夢で魘されそうだな。


「こんな物で、どうですか?」


 ドロノフが、作業を終えたようだ。


 航空写真には、いろいろと書き込んであるが、字が読めない。


 何語だ?


 帝国語なんだろうけど……


 翻訳ディバイスのカメラで写してみると、自動的に日本語に翻訳された。


 しかし、なんだろうこの文字は? アルファベットに似ているが……


「ドロノフ。この文字は、なんという文字だ?」

「帝国文字です」


 まんまかい……


「君たちは、地球人だろ?」

「違います」

「違うのか?」

「私の祖父母は地球人ですが、私はこの惑星の住民です」


 三世だったのか?


「つまり、自分は地球人とは、認識していないのか?」

「はい。あえて言うなら地球系タウ・セチ人と認識しています。ただし、この事を知っているのは私を含めて、少数の者だけ。ほとんどの者は、我々はこの惑星で発生したものと思いこんでいます」

「なぜ、一部の者しか知らないんだ?」

「分かりません。私が知っているのも、父がうっかり口を滑らせたからです。なので、普段は知らないふりをしています」


 どうやら、帝国人は自分達が地球人だという事を隠したいらしい。


「この惑星には、帝国人の他に地球人はいるかい?」

「います。リトルトーキョーの日本人どもです」


 なんか、日本人を憎んでいるみたいだな?


「奴らは、五年前に突然この惑星に降りてきました。そして、現地の獣人どもを手懐けて、我が帝国の領土を犯している侵略者です」


 おいおい……


「侵略者は、おまえらだろ……」

「とんでもない。我々は侵略などしておりません。宇宙は、神が人間のために作ったものです。したがって、汚らわしい獣人どもに、この惑星を支配させるなど、神の意志に反すること。獣人どもを駆逐して、この惑星を人の住む楽園にする事が我らの使命です」


 なんつー勝手な理屈……


「ですから我々は、侵略者なんかではないのです。獣人ども追い出して、本来我々のものである土地を、取り戻しているのです」

「そういうのを……」


 僕は書類を束ねて、即席ハリセンを作り、地面に転がってるドロノフを叩いた。


「侵略者って言うんだよ!」

「ンゴー!」


 猿ぐつわされて喋れないドロノフは、なぜ自分が叩かれるのか理解できず、ただうなり声をあげて抗議するだけだった。

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