第16話 ドローンを回収に来た男
塩の平原に、それは横たわっていた。
さっきまで、空に浮かんでいたドローンのなれの果て。
気嚢に微かに穴があいて、水素が少しずつ漏れて徐々に高度が下がり、最後にここに落ちたのだ。
そのドローンに、何かが近づいてくる。
バイクだ。
バイクは、ドローンの傍らに停止した。
バイクから降りた男が、ドローンに手を伸ばす。
「動くな! 背後から、お前を銃で狙っている」
と言っても、僕が本当にこの男の背後にいるわけじゃないけどね。
落ちたドローンを、誰かが回収にくると予想して、近くに桜花と菊花を配置しておいたのだ。
狙い通り、男が……フルフェイスのヘルメットを被っているので男かわからないけど……とにかく、やってきたので、桜花を通じて声をかけた。
声をかけたというのは正確じゃないな。
僕は奴から二百五十キロ離れた車の中で、パソコンを操作して合成した音声を、桜花のスピーカーから流しているのだ。
え? 直接マイクで話した方が早いって?
いや、そうなんだけど、僕は声に迫力がないというか……ドスの効いた声が出せないので……ようする生声を聞かせると甘く見られそうなので、こういう方法にしてみた。
ちなみに合成音声は、渋い声の声優小杉十郎太に調整してある。
男は、抵抗する様子はなかった。
「よし。両手を上に上げろ」
男は、言われた通り手を上げる。
ええっと、次のセリフは……カタカタっとキーボードを打つ。
「質問に、答えてもらおうか」
『何を、聞きたい?』
答え早いって! キーボード打ってる身にもなれ!
「そのドローンを、操作していたのはお前か?」
『いかにも』
まったく、悪びれる様子がなかった。
「操作していたのは、お前一人か?」
『いや、他にもいるが、近くにいたのは俺一人だけだったのでな』
「それで、一人で回収に来てたか?」
『いや、お前と話ができると思って来た』
なに?
『最後のドローンは、わざと破壊しなかったな。しかし、活動は続けられないように、太陽電池は破壊。気嚢も爆発しないように慎重に穴を開けた。それは、落ちたドローンを誰かが回収に来ると思ったからだろう?』
ばれてた?
『近くに、お前のドローンが待機しているのも分かっていた』
「分かっているなら、なぜ来た?」
『さっきも言った通り、お前と話がしたかったからさ』
ううん……予定が狂ってしまったな。
予定では、この男を脅迫して、いろいろと白状させるつもりだったのだが……
それとも、脅迫する手間が省けたと考えるべきかな?
「ご主人様」
ヘッドマウンテッドディスプレイの左半分を透過状態にして、Pちゃんの方を向いた。
「あの男の服、防弾服です。ドローンの小口径バルカンでは、貫通できません」
「ドローンに自爆装置は?」
「ついてます」
「よし、いざとなったら、自爆装置を使おう」
なるべく、使わずに済ませたいが……
「話とはなんだ?」
『どうだ? 俺達と手を組まないか?』
手を組む? いきなり何を……
「その前に聞きたい」
『なんだ?』
「三日前に、シャトルがドローンに襲われた。お前がやったのか?」
『そうだ』
「目的は、なんだ?」
『お前が邪魔だからさ』
「なぜだ? 僕がお前に、何をしたというのだ? 僕は、三日前にプリンターで再生されたばかりだ。お前に恨まれるような事はしていない」
『何も事情は、聞いていないのか?』
「聞く前に、シャトルを落とされた」
『そうか。それで、俺はお前を殺そうとしたわけだが、どうする? 俺を殺すのか?』
防弾服だから殺せないと思っているな。まあ、ドローンの自爆装置で、殺せるわけだが……
この惑星に来て初めて会った地球人だし、できれば穏便にすませたいのだけど……
僕は、Pちゃんの方を見る。
「こいつ、殺した方がいいかな?」
「それは、ご主人様が判断することです」
ですよね。
「ただ、私は殺すべきだと思います」
それは分かるけどね、人を殺すのはちょっと……いや、甘いって言うのは分かっているよ。
「おまえが今後も、僕の命を狙うつもりなら殺す。僕も、死にたくはないからな」
『ここで俺が、『もう命は狙わない』と言ったとして、おまえはそれを信用できるのか?』
できないな。
『ここで俺を殺しても、俺の仲間がお前を狙う。で、さっきの話だが、俺達と手を組まないか? お前は三日前に、プリンターで出力されたばかりだそうだな。そして事情は聞いていない。それならまだ、この惑星にしがらみはないだろう』
まあ、しがらみはあまりないな。翼竜と友達になれた以外は……
『俺達と手を組むなら、悪いようにはしないぞ』
『悪いようにしない』という話を信じると、たいてい悪いようになる気がするんだが……
『おまえ。見知らぬ惑星にいきなり放り出されて、どうすればいいか困っているのだろ?』
確かに……
『俺達のところに来れば、お前が今後、この惑星で無難に生活していけるように世話をしてやる。望むなら、もっと高みを目指せるように手を打ってやるぞ』
なんか、いろいろ世話してくれるみたいな事を言ってるが……
しかし、一度でも僕の命を狙った奴の言う事なんて信用できない。
「悪い話じゃないな」
『そうだろ』
「だが、断る」
『なぜだ? 分かってるのか? 俺の話を断るという事がどういう事か? 今後もおまえは命を狙われるという事だぞ』
それは困るな。
だけど……
「知ってるが、お前の態度が気に入らない」
ていうか、こいつは『手を組もう』と言ってるが、自分の素性とか、目的とか、肝心なことは何も話していない。
迂闊に手を組めば、何をされるか分かったものじゃない。
『ククククク』
突然、男が笑い出した。
僕は、何かおかしなことを言ったかな?
『合成音声なんて、まだるっこしい事はやめて、直接話をしたらどうだ? 声を変えても、お前だと分かるぞ。北村海斗』
な!?
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