第10話 戦いの後

「危ないところでしたね」


 Pちゃんが、背嚢にコネクタを差し込んだ。


『電源に接続。充電しています』


 バイザーの右下に、そんなメッセージが表示される。


 プロトタイプのロボットスーツは、電源が無くなるとピクリとも動かなくなるという問題があったが、これはその点は改良されていたようだ。重いけど何とか身体を動かせた。


 それでも、レッドドラゴンの身体にしがみ付いてはいられなくて、そのままずり落ちてしまった。その後、ワイヤーでぶら下がってるところを、ベジドラゴンに助けられ、無事に地表に降りられたのだ。 


 レッドドラゴンは、そのすぐ後に塩の平原に墜落した。


「ロボットスーツが、血だらけですね。すぐにお洗濯しないと」


「洗濯できるんか?」


「着脱装置に戻せば、自動的に汚れは落とされます」


「便利だな」


 ベジドラゴンの子供が、近くに降りてきた。


「助ケテクレテ、アリガト」


「礼なんていいよ。助けられたのは、お互い様だ」


「オタガイサマ? ゴメン、ワカラナイ」


 あまり難しい言葉は無理か。


「それより、君らはこんなところで、何してたんだ?」


「アタシタチ、コノ、シオバ、ツカテタ」


 シオバ? ああ! 塩場! 塩湖の事か。


 野生動物は、ミネラル補給のために岩塩を舐めたりすると聞いたことあるけど、ベジドラゴン達はこの塩湖をそれに使っていたんだな。


「デモ、シオバニ、レッドドラゴン、四頭住ミツキ、困ッテタ」


「あんなのが、まだ三頭もいるのか?」





レッドドラゴンB『レッドドラゴンAがやられたようだな』


レッドドラゴンC『くくく、奴はレッドドラゴン四天王の中でも最弱』


レッドドラゴンD『北村海斗ごときにやられるなど、四天王の面汚しよ』





 どっかで、他の三頭がこんな会話をしているのではないだろうか?


「他ノ三頭、逃ゲタ」


「え? 逃げた? なんで?」


「アナタガ、来タカラ、レッドドラゴン、地球人、怖ガル」


「え? 僕を恐れて逃げたの?」


 なるほど。この惑星には、僕以前にプリンターで作られたコピー人間がいるんだったな。


 そいつらが何をやらかしたのか知らんが、レッドドラゴンの心にトラウマができるほどの恐怖を植え付けたんだろ。フルボッコにでもしたのかな?


「でも……」


 僕は、潮の平原に横たわるレッドドラゴンの死骸を指差した。


「あいつは、なんで逃げなかった?」


「アイツハ、馬鹿ダカラ」


 どの種族にも、馬鹿はいるんだな。


 そうだ! 肝心の事を聞かないと。日本語を喋ってるという事は、どこかで日本人のコピー人間と接触しているはず。それも、言葉を覚えるくらい親密に……


「なあ、君。日本語をどこで覚えたんだい?」


「リトルトウキョー」


 いかにも日本人がいそうな地名だ。


 それから、しばらく会話して分かった事は、ベジドラゴン達が暮らしていたのは、リトル東京近くにある森らしい。ただ、そこに定住しているわけではなく、季節が変わると渡り鳥の様に移動するようだ。


 今、リトル東京付近は冬なので、温かい南の方へ移動して来ていたのだ。


 ところで、リトル東京なんて大層な名前をつけているが、実態は小さな村に過ぎないようだ。ベジドラゴンは、日本人から果物を分けてもらう代わりに、荷物の運搬なんかを請け負っていたらしい。


 という事は、ベジドラゴンって、知的生命体に該当するんじゃないのか?


「おい、Pちゃん。ベジドラゴンて、知的生命体じゃないの?」


「そういう説もありますが、ベジドラゴンが知的生命体に該当するかは、まだ結論が出ていません。片言の日本語を話す個体がいる事は確認されていますが、それだけで知的生命と結論はできません」


「しかし、知的生命体かもしれないのだろ? なのに、お前さっきチビが僕に付いてくるようなら、撃てばいいと言ったよな」


「当然です。私にとって、もっとも大切なのは、ご主人様の命ですから」


 こいつの言った事も、けっして間違っていたわけじゃない。


 いい恰好をしようとして、自分が殺されたら、なんにもならないのも確かだ。


 だけど、チビを撃ったりしたら、目覚めが悪すぎる。


 ロボットに、こういう気持ちを理解するのは無理なんだろうな。


「だけど、ベジドラゴン達が、あそこまでご主人様に協力してくれるというのは計算外でした。撃っていたら、それはなかったでしょうね。撃てばいいと言ったのは、私の間違いです。申し訳ありません」


 分かってくれたか。


 正直、あの時ベジドラゴン達に協力して貰えなかったら、負けていたかもしれない。


 助けてよかったんだよ。おかげで、リトル東京の情報も……そうだ!


「話変わるけど、この惑星にリトル東京という場所はあるの?」


「はい。データにあります」


「そこに、日本人はいるんだな」


「そのデータはありません。ただ『リトル東京』という地名が、惑星の地図に記載されているのです」


「しかし、どう考えたってその地名は日本人の町だろう。あるいは村かもしれないが……」


「そうなんですか?」


 こいつ、あんまし優秀じゃないな。


 とにかく、リトル東京とやらに、僕を呼びだした奴がいる可能性が高い。


 これで、当面の目的は決まったな。


 リトル東京を目指そう。


(第二章 終了)

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