第77話 迷子~華ヶ咲彩乃~
(……うーん。多分この辺だと思うんだけどなぁ)
ベンに今から道場へ向かうとメッセージを送信した後、スマホで道順を調べながら私は政宗君とベンがいる道場を目指し歩いていた。
この辺はあまり関わりが少なく通る事なく、見覚えのない建物を見ると、不思議と気持ちが高揚してくる。
「久しぶりだな、歩くの」
ぽつりとそんな言葉を呟く。最近はずっとベンに送り迎えをしてもらっている。
その事についてはベンに多大な迷惑を掛けている事は重々承知しているし、私も歩く方が好きだから歩いて帰りたい。
でも――
「相談、してみようかな……」
今頭に浮かんでいるのは、一番頼れる男の子。彼を頼りたいという気持ちと、自分自身の事で迷惑を掛けたくないという気持ちが心の中で喧嘩している。
政宗君も私の様子が少しおかしいのは気付いてるだろう。だけど政宗君はしつこくその事を聞いてこない。気が使える彼らしい。
私が相談したいと言ったら、政宗君は耳を傾けてくれる……かな。
◆
「政宗君……大丈夫かな」
政宗君の事を考えた影響で、脳内にフラッシュバックするのは体調を崩し布団で横になっている政宗君。
(というかお母様もお母様よ。何で政宗君がこんな事をやらないといけないのよ……!)
政宗君は性格的に好戦的ではないし、絶対に辛い筈なのだ。
だけど私がお母様に意見できる訳がないし……。
(はぁ……いつになったら私はお母様に強く意見を言えるようになるんだろ……)
そんな事を思いながら私はスマホとにらめっこして目的地である道場を目指す。
その時だった。
「……あれ?」
ふとスマホから目を上げると、私の前に小さな人影が見える。その後ろ姿はとても小さく、ひらひらとした洋服に身を包み手にはウサギっぽいぬいぐるみを抱える一人の少女。
周りは薄暗くなってきており、この道は車の通りも多い。……ちょっと声掛けてみようかな。
私は少しだけ歩くペースを上げる。するとすぐにその少女に追い付く。
「……ちょっといいかな」
優しく、ちょんちょんと少女の肩を叩く。
すると少女は歩くのを止め、振り返り私を見上げる。
小動物を彷彿とさせるようなくりくりとした瞳。可愛く動くツインテール。お世辞抜きでとても可愛い女の子だった。
「……だれ?」
「優しいお姉さんだよ。君のお母さんかお父さんはどこにいるのかな?」
見た目的には小学生くらいか。ならば言動に気を付けていかないと、不審者扱いされる可能性もある。
私は少女の目線に合わせるように膝を折り、朗らかな笑みを浮かべる。
「……わかんない」
少女はキョロキョロと周りを見渡した後、一切表情を変えずそう言った。
この年の子なら泣き叫んでもおかしくないと思うけど……もしかして慣れてるのかな?
(でもやっぱり迷子か……)
私の予感は当たり、この子は保護者の方とはぐれてしまったらしい。
こんな小さな子が一人で出歩いていい時間じゃない。
「ねぇ? お家までの道って分かる?」
少女はまたキョロキョロと周りを見渡し、
「……わかんない」
……結構天然なのかな。まぁまだ小さいしあまり現状が分かってないだけか。
(でも取り敢えずは交番よね……。保護者の方もこの子を探してる筈だし)
スマホに表示されている道場への行き方を消し、近くの交番を調べる。
すると、私の制服のスカートが弱い力で引っ張られる。
スカートを引っ張った犯人――迷子の少女は、ポケットから一枚の紙切れを私に差し出す。
「これ」
「……え?」
戸惑いながらも私はその紙切れを受けとる。そしてその紙切れには、
『本当に申し訳ないのですが、この番号までお願いします』
と書かれその後に電話番号が書かれていた。
「これって……」
「おかあさんが言ってた。お家がわからなくなったらちかくのおんなの人にこれを渡してって」
(なるほど……。常習犯って事ね)
この子の落ち着き。多分この子はよく迷子になってしまうのだろう。
子供の予測はつきにくいというが、こういう方法もあるのね。少し勉強になる。
……でも迷子にならないのが一番なんだけどね。
「分かった。ちょっと待っててね」
「うん」
少女は私のスカートを掴んだまま頷く。
落ち着いているように見えて、もしかしたら結構不安なのかな。可愛いな、子供って。
私は少女の頭を優しく撫でてから、紙に書いてある番号へと電話を掛ける。
(これは道場の方へは行けないな……。後で政宗君に連絡しとかないと……)
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