第5章

第1話

 


 


「にゃにゃにゃにゃにゃーにゃ。にゃにゃにゃー。」


「にゃにゃにゃにゃにゃーにゃ。にゃにゃにゃん。」


「にゃーにゃにゃにゃにゃーにゃんにゃん。にゃ。」


ご機嫌な三姉妹は並んで窓から外を見ていた。


何を言っているかわからないが、とても楽しそうである。


ゆらゆらと左右に揺れる尻尾を触りたい。そんな気持ちにさせられた。


「マーニャ、クーニャ、ボーニャ。なにか楽しいことでもあったのかな?」


私はそんな三姉妹に向かって声をかけた。


楽しそうにしていたから、黙って見ていようかと思ったのだけれども、好奇心が勝ってしまった。そうして、あのふわふわな尻尾に触りたい。


『んー。なんだかとってもいい気分なのー。』


『なんだか、とっても楽しい気分なのー。』


『なんだか、良いことが起こりそうな気がするのー。』


三姉妹からは非常に抽象的な言葉が帰って来た。


どうやら特にこれといって何かがあったわけではないが、楽しい気分だということらしい。


まあ、今日はいいお天気だし、外もポカポカと気持ちいいしわからなくもない。


こんな時は日差しが当たるところで惰眠をむさぼっていたいものだ。


「そっかそっか。どんな良いことがおこるのかなぁ。」


にこにこしながら、マーニャたちを見つめる。


ほんと、マーニャたちを見ていると飽きないから不思議だ。それに、癒されるし。


 


 


 


「マーっ!クーっ!ボーっ!」


てとてとという拙い足音を立てて一人の幼児がやってくる。


その後ろをハラハラとしながら、タイチャンが追いかけてくる。


だが、決して幼児の邪魔せずただ見守っていることに徹している。


危なっかしく歩く幼児の様子にきっと抱き上げて運んであげたいと思っているタイチャンだが、必死に我慢しているようだ。


幼児はてとてととマーニャたちの元まで歩いてくる。


真っ黒な髪を頭の上の方で左右に分けて結い上げている。いわゆるツインテールだ。


そも髪には真っ赤なリボンが巻き付けられている。きっとタイチャンがやったのだろう。


結い上げた髪を揺らしながら、幼児はマーニャの尻尾をむんずと掴む。きっと、左右に揺れていたのが気になったのだろう。


「にゃーーーーーっ!!?」


敏感な尻尾をむぎゅっと幼児に握られたマーニャは痛みと驚きで悲鳴を上げた。


「にゃ。ご、ごめんなしゃい。」


幼児はマーニャの尻尾を握ったことでマーニャが悲鳴を上げたということに気づいて慌てて謝る。まだ、たどたどしい口調がなんとも可愛らしい。


『ちょ、ちょっと驚いただけなのー。謝らなくていいのー。』


マーニャも幼児には甘いようで、尻尾を急に握られたことにびっくりはしたようだが、怒ったりはしなかった。


『ホンニャン、どうしたのー?』


『ホンニャン、いらっしゃいなのー。』


そう。幼児の名前はホンニャンと言う。なんとも可愛らしい名前だ。


そうして、プーちゃんと元魔王様のお子であり、現魔王様でもある。


だが、まだ小さいためかマーニャたちは魔王様とではなく「ホンニャン」と気安く名前を呼んでいた。


ちなみに、私が「ホンニャン」と呼ぶとホンニャンの後ろに常に控えているタイチャンに睨まれるのでホンニャンを呼ぶときは「魔王様」と呼んでいる。


心の中ではホンニャンと呼んでいるけど。


「まーたちに会いにきちゃの。」


ニコニコ笑顔を浮かべながら答えるホンニャン。


ほんと、プーちゃんと元魔王様の子供かと思えないほど、可愛らしく愛らしい。


タイチャンなんか目にいれても痛くない程可愛がっている。


もちろん、女王様もこれでもかってほど妹を可愛がっているけど。


っていうか、女王様と元魔王様のような威圧感がホンニャンには見当たらないので本当に可愛らしいものである。


『ふくふくホッペ触らせてなのー。』


『マーニャずるいのー。あたしも触るのー。』


『あたしもー。あたしもー。』


え。なにそれ。私だってホンニャンのぷくぷくほっぺに触りたいんだけど。


ちらりとタイチャンに視線を向ける、マーニャたちに対してはにこにこした笑顔を向けているが、私と視線が合うと睨んできた。


まるで、私にはホンニャンには触らせないと目で告げているようである。


マーニャたちは順番にホンニャンのぷくぷくしているほっぺに前足の肉球を押し付けている。ホンニャンは肉球の感触が気に入っているのか始終ご機嫌である。


『にゃー。やっぱりホンニャンのほっぺは気持ちいいのー。』


『マユと違ってすべすべなのー。』


『マユと違って肉球に肌が吸い付いて気持ちいのー。』


マーニャたちはホンニャンのほっぺを触って嬉しそうに心の声を駄々洩れにさせている。


ってか、そこ。私の頬と比べるでない。


幼子のやわっこい肌と酸いも甘いも経験した大人の肌を比べてはならないのだよ。まったく。


「まーたちのお手ても気持ちいいーの。」


ホンニャンも嬉しそうにふくふく笑っている。


仲良きことは良き事かな。


でも、私も触りたい。


でも、タイチャンが見張っているからホンニャンのほっぺに触ることはできない。こうなったら、マーニャ達の肉球を触らなければっ!!


「マーニャ。クーニャ、ボーニャ。えへっ。えへへへへっ。」


肉球に触れる。そう思ったらにやけてしまうのが抑えられない。


変な笑い声まで漏れ出てしまう。


『やっ。マユ怖いのー。』


『不気味なのー。』


『ま、マユ?ど、どうしたの?』


マーニャたちは私の様子に怖がっているようだ。ごめん。でも、にやけるの止められそうにない。


「お手て触らせて。」


マーニャたちに引かれながらも、私は欲望のまま口に出した。


でも、拒絶の反応はマーニャ達からではなくホンニャンからだった。


「ダメー。マーたち嫌がってゆのっ!メっ!」


ホンニャンに可愛くダメって言われてしまった・・・。


ガクッと項垂れる私。そんな私のもとにマーニャたちがやってきた。


そうして、額に置かれる三つの小さな手。


もちろんマーニャたちの可愛い可愛い手である。


肉球がぺっとりと額に当たる。


『マユ、泣かないのー。』


『悲しそうな顔しないでなのー。』


『元気だすのー。』


そう言ってマーニャたちは私のことを慰めてくれた。


うぅ。マーニャ達優しいの・・・。大好き。


 


 




 


 


 


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