第55話

 


 


 


「・・・もしかしたら、元魔王様の寿命が一年・・・延びる・・・かも?」


化粧水の効果が絶対なのかはわからない。


危篤状態で化粧水を飲んだところでもう手遅れかもしれない。


『マユっ!すごいのだっ!!』


「そのような奇跡の化粧水があるだなんて・・・。」


プーちゃんと女王様は一年間寿命が延びることに素直にはしゃいでいる。


対するタイチャンとタマちゃんは微妙な表情をしている。


元魔王様が生きているのは二人とも嬉しいようだが、このような方法で寿命を延ばしていいものかと思っているようだ。


『・・・マオマオの寿命が延びるのは良いことじゃとは思ってはおるが・・・この化粧水は良くないのぉ。実に危険を孕んでいる化粧水じゃ。』


「そうですね。マオマオ様の命を無理やり延ばしているようなもの。神の意志を捻じ曲げているような代物です。安易に使用すべきではないでしょうね。」


私もそれは理解している。


この化粧水の危険性もわかっている。


だから、王都の鑑定士さん以外には誰にも言っていないのだ。


女王様もこの化粧水の存在を知らなかったということは、王都の鑑定士さんは上司にも存在を告げていないのだろう。


それほどまでに危ういのがこの化粧水である。


『この化粧水を飲んで寿命が一年延びたとしよう。して、同じ効果を持った化粧水はまだあるのかえ?』


「あれが最後の一本です。」


『そうか・・・。』


私が作る化粧水は効果どころか味も選んで作成することができない。


同じ材料なのに不思議なことにその時々で効果も味も違うものが出来上がるのだ。


そのため全く同じものを意図的に作成することができないのである。


この寿命が一年延びるという効果を持った化粧水も出来たのは一回こっきりだ。


猫耳が生える化粧水はいっぱいできたんだけどなぁ。まあ、もう全部オークションに出してしまったけれども。


「ここにいる方は誰も口外しないと信じていますから。それに、作りたくとももう二度と同じ効果のものは作れないかもしれませんし・・・。」


「ほぉ。意図して効果を付与することができないんですか?」


「はい。できません。」


「不思議なこともあるものだ。では、マオマオ様の寿命がこれ以上延びることもないと?」


タイチャンが目を細めて確認してくる。


「それは断定できません。もしかしたらそういう効果のある化粧水が出来てしまうかもしれません。ですが、きっともう寿命を延ばすような効果がある化粧水はきっとできないと思いますよ。どうもその時に必要になる効果を持つ化粧水が必要なだけ作成されるようです。」


「へぇー。便利なものだな。では、今回の寿命を延ばす化粧水は必要だったということか?」


「それはわかりません。ですが、プーちゃんと女王様が元魔王様とお別れするのには期間が短かったのかもしれません。だから元魔王様に使用するようにと寿命が一年延びる化粧水ができたのかもしれません。まあ、お別れをするのに一年という期間が短いのか長いのかという議論はあるかと思いますが・・・。」


『確かにのぉ。再会してからまだ間もないからのぉ。あと一年くらい時間があっても良いかもしれぬのじゃ。』


「そうですね。」


タマちゃんもタイチャンもしんみりしたように言うものだから思わず茶化したくなる。


「タイチャン。随分丸くなったね?以前は私の話なんか聞く気がなかったでしょ?丸くなったのはマーニャたちのおかげかなぁ?」


「うっ・・・。た、確かに猫様たちはとっても可愛くてキュートで愛しくて守ってあげたくて・・・。って違いますよ!!」


「ほほぅ。そっかそっか。そんなにマーニャたちのことを愛していたのね。」


「うにゃっ・・・。」


タイチャンってば随分とっつきやすくなった。


今もちょっとからかうと顔を真っ赤にしてしまうのだから。


どうやらタイチャンにマーニャたちのお世話を任せたのは成功だったようである。


それに、マーニャたちが魔王の座につくと魔族たちはこぞってマーニャたちを猫可愛がりしだしたし。


今のところマーニャたちに害はでていない。


「・・・マユさん。」


タイチャンを揶揄って遊んでいると、しわがれた女性の声が聞こえてきた。

「元魔王様っ。」


「マオマオ様。」


『マオマオ。』


呼ばれて振り返るとそこには元魔王様がベッドに腰かけてこちらを見ていた。


どうやら元魔王様の意識が戻ったようだ。


それにしても、あの化粧水威力が半端ないな。


今にも死にそうだった人間があっという間に起き上がれるほど回復するだなんて。


「マユさん。あなたが儂に化粧水を飲ませたのじゃな?」


「は、はい。」


元魔王様の口元は笑みを浮かべてはいたが、目は全く笑ってはおらず真剣そのものだった。


「儂の寿命を延ばすことが目的じゃったのか?」


「いえ。お酒が欲しいとおっしゃられたので、お酒味の化粧水を飲ませました。その後に、寿命を延ばす効果があるということに気づいたのです。」


「そうか・・・。その化粧水はあだあるのかえ?」


「ありません。もう一度同じものを作れるかどうかもわかりません。」


「そうか。それで良い。寿命を延ばすなどもってのほかじゃ。儂は好かぬ。」


どうやら元魔王様は寿命を延ばされたことに憤りを感じているらしかった。


『だ、だが・・・。我はもっとマオマオと一緒にいたい。』


「私だって、もっとお母様と一緒にいたい。」


だが、プーちゃんも女王様もまだまだ元魔王様と一緒にいたいようである。


涙ながらにこちらに訴えかけてくる。


「ならぬ。定められた寿命なのじゃ。違えてはならぬ。」


それを元魔王様が一喝する。


「でも・・・。」


「お願いだ。わかってくれ。儂はもう長く生きたのだ。始祖竜様もパールバティーのことも嫌いではない。大好きじゃ。じゃが、寿命には逆らえぬのじゃ。だから儂との約束じゃ。もうこれ以上マユさんに負担はかけないこと。マユさんにまたこの化粧水が欲しいと無理を言わないこと。」


元魔王様の顔は真剣そのものだ。


プーちゃんも女王様も元魔王様があまりに真剣な表情でお願いをするものだから、嫌だとは言えなかった。


「ありがとうございます。」


私はプーちゃんと女王様にきっぱりと告げてくれた元魔王様にお礼を言う。


この二人だったら寿命が延びる化粧水を作れと言ってきそうだからだ。


私はこの二人には基本的に逆らえないので、化粧水を作らざるを得ないだろう。


ただ、寿命が延びる効果を持つ化粧水が絶対作れるというわけではないので、作れなかった場合はきっとプーちゃんも女王様も今以上に落胆してしまうはずだ。


だから、この元魔王様の判断はプーちゃんと女王様の心も守る決断なのだ。


「残りの時間が一年増えた。それだけで儂は十分じゃ。このひと月だけでも始祖竜様とパールバティー様と一緒に入れただけでよかったのじゃが・・・。それでもこの穏やかな時間が一年続くというのであればそれも良い。じゃが、それ以上、儂は生きることを望まぬ。」


『マオマオ―。』


「お母様。」


「この残り一年の間に儂がいなくなる覚悟をしかとしておくのじゃぞ。」


元魔王様がそう言うと、プーちゃんと女王様が涙を流しながら、元魔王様に抱き着いた。


そばで見ていた私たちももらい泣きをしている。


っていうか、タイチャンなんて大洪水だし。


意外と涙もろかったんだね。タイチャン。


「さて、タイチャンよ。儂がいない間ご苦労であった。それで、マーニャ様たちは魔王として魔族を束ねられそうかね?」


元魔王様は魔族のことが気がかりだったようです。


元魔王様は現魔王のマーニャたちではなく、タイチャンに確認した。


 


 



 


 


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