第50話

 


 


「え?ぇええええええええええええっ!!!?」


「なっなっなななななななっ!!!そ、それはなりません、魔王様っ!!」


「あら、まあ・・・。」


『ほぅ。なかなか良い選択かもしれぬのぉ。』


上から順に、私、タイチャン、女王様、タマちゃんが魔王様の言葉に反応する。


いや、ほら。


まさか、魔王様が私に魔王になれなんて言うとは思わなかったし。


「ふむ。なかなか良い提案だとは思うがのぉ。」


「魔王様っ!こやつは人間ですよっ!!魔族じゃないのに魔王を名乗るだなんて許されません!それに魔力だって寿命だって魔族より短いじゃないですかっ!」


タイチャンは断然反対!とばかりに魔王様に食って掛かっている。


まあ、その気持ちはわからなくもない。


よりによって自分たちよりか弱い人間である私を魔王にしようと言っているのだから。


自分たちの王には相応しくはない。そう思うのが普通である。


それに、魔王様とは旧知の仲って訳でもないしね。


「おや。タイチャンは気づかなかったのか。マユさんの魔力はタイチャンよりも多いぞ。それに寿命は・・・ここにいる誰よりも長そうじゃ。先が見えぬ。」


「へ?」


「は?」


「ほ?」


『そうじゃ。そうじゃ。』


続く魔王様の言葉に私たちは驚きを隠せない。


ただ、タマちゃんだけは頷いているだけだったが。


私がここにいる誰よりも寿命が長いとはどういうことだろうか。それに、魔力もタイチャンよりも多いとは・・・。


全く理解が追い付かないぞ。


人間である私の寿命なんて残り50年もあればいいほどだろう。


魔族がどれほど長生きするのかはわからないが、まさかタイチャンが後50年で寿命を迎えるようなことはないだろう。たぶん。


それに、ここにいる誰よりもってことはタマちゃんやプーちゃんまでも含まれているのだ。


彼らよりも私の寿命が長いだなんて信じられない。


あ、あれ?


でも、もしかしたらビール味の化粧水の効果、か?


そう言えば、あの化粧水を飲むと寿命が1年増える効果があったはず。


でもそんなにたくさん飲んでいないはずだしなぁ。


「あの、寿命も魔力も私はそんなにないはずなのですが・・・。」


「なにを言っておるのだ?マユの魔力はかなり多いぞ。それに寿命は先が見えぬ。つまり後1000年は生きるであろう。」


「はあっ!?」


魔王様の口からまたもや意味不明な言葉が発せられる。


私の寿命があと1000年はあるってどういうことだろうか。


『マオマオよ。訂正するのじゃ。マユの寿命はない。この世界が滅びるまで生きるじゃろう。』


「へっ!?」


魔王様の言葉に反応するように、タマちゃんが衝撃的なことを言った。


私の寿命がないってどういうことなの!?


この世界が滅びるまでってなにそれ。こわいんだけどっ!


 

 


 


 


「タマちゃん。私に寿命がないってどういうことなの?私、普通の人間だよね?」


まるで普通の人間ではないと言われているようで、背中を冷たい汗が流れ落ちる。


『なにを言っておるのじゃ?マユは女神代理であろう。女神代理に寿命があるわけがなかろう。それでなくとも、異世界からの迷い人は通常のヒトの10倍は長生きするのじゃ。知らなかったのかえ?』


「知ってるわけないでしょ!?誰も教えてくれなかったよ。そんなこと・・・。」


タマちゃんが何をいまさらというような呆れた顔をして教えてくれた。


女王様も異世界からの迷い人が通常のヒトの10倍は生きるというところで「うんうん」と頷いていたので、女王様は異世界からの迷い人の寿命については知っていたようだ。


「ほぉ・・・。マユさんは女神の代理でもあったのか。ちょうどよいではないか。ついでに魔王もやってみないかのぉ?」


魔王様は目を細めてそう勧誘してきた。


「いえ。女神様の代理だけで十分ですので。」


もうすでに人間離れしてしまっているようだし、もうこれ以上は余計なことに首は突っ込みたくない。


私は、キャティーニャ村でマーニャたちとのんびり暮らしたいんだ。


これ以上のしがらみは必要ない。


というか、いらない。


「そうかのぉ。それは残念じゃ。」


魔王様はそう言って肩を落とした。


『マーニャ魔王なのー!』


『クーニャも魔王するのー!』


『ボーニャも!魔王!!』


魔王様ががっかりとした表情を浮かべていると、マーニャたちが魔王に立候補してきた。


それぞれ目がキラキラと輝いており、いやいや魔王になりたいと言っているわけでもなさそうだ。


っていうか、マーニャたちは魔王というものがどんなものだかわかっているのだろうか。


私だって魔王は魔族を束ねている長ということしか知らないし。


「ほぉ。実に頼もしいのぉ。ほっほっほっ。では、マーニャ様たちに頼もうかのぉ。」


魔王様は目を細めて朗らかに笑いながら、マーニャ達を温かい眼差しで見つめている。


って、魔王様。


本当にマーニャたちに頼むつもりなのっ!?


マーニャたち力はないよ?逃げ足は速いけど・・・。


いや、でもレコンティーニ王国にいる限りはマーニャたちにどんな攻撃も通用しないけど。


「魔王様っ!?どうして猫様が魔王になるのですかっ!?ちゃんと魔族の中から選定してください!」


タイチャンはマーニャたちが魔王になってはたまらないとばかりに、まくし立てている。


まあ、そうだよねぇ。


いきなりやってきて「はい。今日から私が魔王になります。」と言われたって部下は納得しないよね。


納得してくれるようにそれなりの実力を示さなければならないよね。


「それに・・・それにっ!魔族は血気盛んな者も多いのですよ!そんな中に猫様たちを放り込んでしまっては猫様たちが怪我をしてしまいます!それに猫様に魔王という重責を負わせるだなんて。猫様には自由にいて欲しいのに・・・。ああ・・・。」


そう言ってタイチャンは涙を流しながらその場に膝をついて嘆きだした。


っていうか、タイチャン。猫好きだったんだね。


まさか、自分より弱い猫が魔王になることが許せないんじゃなくて、猫が他の魔族に害されるんじゃないか心配で嘆いているとは・・・。


ほんと、猫様最強だなぁ。


 


 



 


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