第41話

 


「じゃあ、そうと決まれば早めに魔王城に行きましょう!」


鉄は熱いうちに打てというし、決まったら即実行しなければね。


後でやっぱり・・・と考えなおす時間をなくすことが大切だ。


今からでも行きたいくらいだが、今はもう夜中だ。


こんな時間から魔王城に行くのは迷惑だろう。


って、魔族って昼夜逆転の生活送ってないよね?


もし、昼夜逆転の生活を送っていたら昼間に魔王城に行く方が迷惑になるか。


うーん。


「ねえ、タマちゃん。魔族って夜行性かな?」


『なんじゃ?急に。』


「えっとほら、魔族が夜行性だったら昼間に魔王城に行くのは迷惑だろうなって思って。」


『はあ・・・。今更なのじゃ。』


「うっ・・・。」


魔族が夜行性かどうかなんて今まで気にしたこともなかった。


だから、前回魔王城に行ったときは真昼間だったのだ。


確かにタマちゃんの言う通りに今更なんだけどね。


「魔族は夜行性だ。今から行っても文句は言わぬだろう。」


タマちゃんの代わりに女王様が親切にも教えてくれた。


やっぱり。


魔族は夜行性だったようです。


となると、前回昼間に行ったのは失敗だったなぁ。


迷惑かけたよね。


でも、魔王様もそのことに対しては怒っていなかったからよしとするか。


「じゃあ、今から行きますか?」


私は、女王様にそう訊ねた。


私たちは夜行性じゃないからね。


一応女王様に確認してからでないと。


「ええ。今から行きましょう。」


「わかりました。」


『妾もよいぞ。でも、マーニャ様たちはおねむの時間ではないのかえ?』


「たしか、猫も夜行性だったはず・・・。」


『マーニャ行くのー!』


『クーニャも!ミルクくれるなら行くのー!』


『一人でお留守番嫌だからボーニャも行くのー。』


ベッドルームで寝ていたはずのマーニャたちがトコトコとやってきた。


どうやら私たちの話し声で起きてしまったようだ。


念のためマーニャたちが眠ってしまってもいいように、マーニャ達を入れるバスケットを持っていこう。


「プーちゃん。そういう訳で今から魔王城に連れて行ってくれるかな?もちろん、トマトいっぱい食べていいからね。」


魔王城に行くにはプーちゃんの助けが必要である。


プーちゃんじゃなければ転移の魔法なんて使えないのだから。


『・・・我が行くことは確定なのか?また前みたいに近くまでは一緒に行くが、魔王城には入らないからな。』


「わかった。わかった。それでいいから。」


プーちゃんが嫌そうな目をしてこちらを見てきた。


それでも近くまでは一緒に行ってくれるというのでプーちゃんにお願いをする。


うん。どうやらうまく女王様を魔王様のところに連れていけそうだ。


よかったよかった。


そう安堵していると、不意に女王様から声がかけられた。


「なあ。マユ。プーちゃんは魔王と勝負するのではなかったのか?」


「あっ・・・。」


女王様の今更ながらの指摘に私はカチンッと固まった。


そうだった。


今回、魔王城に行くのは魔王様とプーちゃんが勝負する様子を女王様に見せて、女王様が弱くないと証明するためのものだったのだ。


それなのに、プーちゃんが魔王城へ行かない。


そうなると、魔王様とプーちゃんの勝負の様子を女王様に見せることも叶わない。


「プーちゃん。あの・・・。」


『嫌なのだ。マオマオと会うのも嫌なのに、勝負をするのはさらに無理なのだ。』


私が最後まで言う前に、プーちゃんはそう言ってそっぽを向いてしまった。


っていうかどうしてプーちゃんは魔王様に会うのが嫌なのだろうか。


何気にプーちゃん魔王様のこと名前で呼んでいるのに。


親しいから名前で呼んでいるのではないのだろうか。


しかもただプーちゃんはむくれているわけではなく、どこか寂し気な表情をしている。


魔王様と女王様だけでなく、魔王様とプーちゃんの間にもなにかあるのだろうか。


「プーちゃん、魔王様が嫌いなの?」


私はしゃがみ込んでプーちゃんと視線を合わせると出来る限り優しく問いかけた。


『・・・嫌いではないのだ。でも・・・今のマオマオは嫌いなのだ。会いたくないのだ。』


「どうして?魔王様に何か嫌なことをされたの?」


『違うのだっ!マオマオが我に嫌なことなどするはずがないのだっ!』


魔王様になにかされたから魔王様に会いたくないのだろうか、と思ったのだが、プーちゃんに思いっきり反論されてしまった。


どうやら私の推理は的外れだったようである。


でも、ならば何故魔王様に会いたくないのだろうか。


嫌いでもないし、嫌なことをされたわけでもない。


それならば別に会いたくないとは思わないのではないのだろうか。


「じゃあ、どうして・・・?」


『・・・・・・・・・マオマオはもうすぐ死ぬのだ。死に行く姿を我は見たくないのだ。』


プーちゃんから発せられた言葉に私たちはピキンッと固まった。


まさか、魔王様がもうすぐ死ぬだなんて・・・。


そんなことまるっきり思ってもみなかったのだ。


女王様も驚いた顔をして固まっている。


その表情には驚きとともに堪えきれぬ悲しさも見える。


タマちゃんも悲痛な顔をして固まっていた。


タマちゃんも魔王様とは親しいみたいだったし、まさかもうすぐ魔王様が死ぬだなんて思ってもみなかったという表情だ。


『まさか・・・。プーちゃんよ、なにを言っておるのじゃ?マオマオは死なぬのじゃ。マオマオが死ぬなどあるはずがないのじゃ。』


タマちゃんが声を絞り出すようにそう告げる。


その声は微かに震えていた。


 


 




 


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