第135話

 


私たちは皇太子殿下で夕食を分けてくださるというのを丁重にお断りした。


だって、マーニャたちのご飯は鞄の中にしっかりと入っているし。


私たちのご飯については、マコトさんが王都から買ってきてくれるということだ。


そのため、今、マコトさんはクロとシロと一緒に王都に買い出しに行っている。


そのついでに苦労しているであろうミルトレアちゃんに王都のお菓子を買ってくると言っていた。


その間にお腹が空いたと騒いでいるマーニャたちにご飯を鞄から取り出し、マーニャたちの前に置く。


ミルクを一緒に置いてしまうとクーニャがマーニャたちの分のミルクまで飲んでしまうので、まずはご飯だけ。


『ミルクぅ~。』


クーニャが恨みがましそうな視線を送ってくるが、


「ご飯を食べてからね。」


と、心を鬼にして告げる。


すると、クーニャもすぐにミルクをもらえないことがわかったのか、渋々ご飯を食べ始めた。


いや、ガツガツと食べ始めた。


お腹空いてるもんね。


マーニャもボーニャもクーニャと同じくらいご飯にがっついている。


今日のご飯はカリカリのご飯の上にウェットタイプのフードをトッピングしている。


ウェットタイプだけだとカロリーが足りないし、カリカリタイプの固形だけだと食いつきがいまいちだしね。


どうせならご飯は美味しいものを食べさせてあげたいし。


クーニャがいち早くカリカリを食べ終わって、こちらを見上げてきた。


無邪気さと期待を含んだまあるい瞳をこちらに向けてくる。


「にゃあ。」


と、小さく鳴きミルクが欲しいと訴えるクーニャ。


とても、可愛い。


すぐにボーニャとマーニャもご飯を食べ終わったらしく、口元をペロペロと舐めている。


3匹のために食後のミルクを用意して、3匹の目の前に並べる。


すると、クーニャが待ってましたっ!とばかりに目を輝かせてミルクに飛びついた。その横で、ボーニャとマーニャが静々とミルクを飲み始めた。


ほんと、マーニャたちを見ていると癒されるなぁ。


皇太子殿下のことなんて忘れてしまいそうになる。


うん。


忘れたいなぁ。


あんな頼りない人が皇太子殿下だなんて。


「マユさん、お待たせいたしましたっ。」


ふいにマコトさんの声が聞こえて、目を凝らすとマコトさんがシロとクロを引き連れて姿を現した。


どうやら夕飯の調達が終わって帰って来たらしい。


「お帰りなさい。クロとシロもお疲れ様。」


一仕事終えたクロとシロに鞄の中からご飯を取り出して渡す。


二匹は仲良く「にゃあ。」と鳴いて、ご飯を口にした。


「美味しそうなご飯がありましたよ。」


そう言ってマコトさんが出してくれたのは大きな白いお饅頭でした。


美味しそうな甘い匂いが湯気とともに漂ってきます。


どうやらまだ温かいようです。


思わずゴクリッと喉がなりました。


「たくさん買ってきましたのでいっぱい食べてくださいね。」


そう言ってマコトさんは大きな白いお饅頭を山と積み上げていきます。


「い、いただきます。・・・んっ!甘くて美味しいっ!!」


一口口に含めば口の中で絶妙な甘さの餡が広がります。


うぅ。美味しいよぉ。


夢中で一個食べ、二個目を口にしたところで口の中が甘ったるくなってきたことに気が付きました。


ちょっと塩っ辛いもの食べたいなぁ。


と、マコトさんに顔を向けると、マコトさんも同じことを思ったようで目が合いました。


「あはっ・・・。これしか買ってこなかったんです。」


「・・・ですよね。」


そう言って私は饅頭に齧り付いた。


マコトさんだけに食事を買いに行かせたら駄目だと認識して。


 


 


 


 


「美味しそうだね、ミルトレア。」


「駄目ですわ。お父様。そんな顔して中を伺っては・・・。」


「でも、いい匂いがするよ。」


ぐぅーーー。


こそこそと部屋のドアの前で会話をする声が聞こえる。


言わずもがなミルとレアちゃんと皇太子殿下である。


どうやらお饅頭の良い匂いが二人のもとに届いたらしい。


マコトさんに目配せすると、マコトさんはにっこりと笑った。


「あーお腹いっぱいですねぇ。おや、たくさん余ってしまいましたね。マユさん、もう食べないんですか?」


「えっ。いや、さすがにこの時間に甘いもの何個も食べれません。」


「そうでしたか。あー、どうしようか、このお饅頭。捨てるのも勿体ないし。」


マコトさんは突然大きく声を張り上げた。


私も、それに乗り声を大きく張り上げる。


芝居がかったセリフだが、こう言えば皇太子殿下もミルトレアちゃんも食べやすいだろう。


ゴクリッ。


と、ドアの向こうから唾を飲む音が聞こえた。


『ふむ。我はいくつでも食べれるぞ!これは甘くてうまいなぁ。もっと食べるのだっ。』


『妾もじゃ!美味じゃ美味じゃ。』


『そんなに美味しいのっ!マーニャも食べるのー!』


『ボーニャも!!』


『クーニャもぉ!!』


「あ、マーニャたちはダメっ!マーニャたちには人間の食べるものは味が濃すぎて身体に良くないんだよ。ごめんね。ほら、美味しい、ささみをあげるからね。」


ミルトレアちゃんたちにあげる予定が、プーちゃんたちの所為で台無しに・・・。


「私にもくださぁ~~~いっ!!」


「わ、私も一つくださいっ!!」


ついに耐え切れなくなったミルトレアちゃんと皇太子殿下が部屋に乱入してきた。


うん。


プーちゃんたちの所為で台無しにならなくてよかった。よかった。


 


 


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