第66話
「にゃ、にゃー・・・。」
トンヌラさんは、でかい図体を丸めて情けなく鳴いている。
先ほどから「にゃー」としか言わないので、たぶん、きっと、絶対、女王様に猫語しかしゃべれなくなる化粧水を飲まされたんだと思う。
仕事速いなぁ。女王様ってば。
「にゃー」としか言えない全裸のトンヌラさんに、私の服を貸し出す。
本当は嫌だけど、他に服がないし。
トンヌラさんも嫌なのか顔をしかめている。
そうだよね。女物の服なんて着たくないよね。
でも、全裸よりはマシだと思うんだ。・・・たぶん。
まあ、それかもう一度猫になってもらうか、だよね。
水をかければまた猫になりそうだしね。
「・・・にゃー・・・。」
トンヌラさんはしばらく私の服を見つめていたが、立ち上がり情けないような鳴き声を発したかと思うと、勢い良くシャワールームに飛び込み「にゃーにゃーにゃー。」と泣きながら冷水シャワーを浴びたようだ。
どうやら、女物の服を着るよりも、猫になることを選んだようだ。
びしょびしょに濡れたままシャワールームからトンヌラさんが猫の姿でトボトボと出てきたので、慌ててタオルで水気を拭った。
トンヌラさんはされるがままだった。
「あっ!!マリア!!女王様にマリアのこと訊かなきゃいけなかったんじゃない!どうして、私ってばマリアのこと忘れていたのかしら・・・?」
「にゃにゃにゃ、にゃーん。」
「え?なに?なにを言ってるのか、さっぱりわかんない・・・。」
「にゃー・・・。」
女王様にマリアのことを聞かなきゃいけなかったのに、なんで忘れてしまっていたのだろう。
不思議だ。
とっても不思議だ。
女王様に会うまではマリアのことをしっかりと覚えていたのに。
そんな私のつぶやきに、トンヌラさんは何かを言いたげに口を開いたが猫語のため何を言っているか全くわからなかった。
マーニャたちが来てくれれば翻訳してくれるかな。と思って、ダメだったとがっくりと項垂れる。
化粧水の効果で猫語しか話せなくなっているのであれば、猫とトンヌラさんも意思疎通ができないんだったことを思い出した。
なかなかに厄介な化粧水を作成してしまったものだ。
マリアを迎えに行かなければならないが、こんな状態のトンヌラさんを放置するのも可哀想だ。
化粧水作ろうかなぁ。マリアを迎えに行くのは明日の予定だし。
三時間あれば、一回化粧水を作るだけの時間がある。
今はまだ午後4時。
明日の朝、迎えにいくとして15時間はある。寝ずに化粧水を作れば、5回分はできるはずだ。
あれ?
でも待って・・・。
トンヌラさんって近衛騎士だよね?
女王様についていかなくてよかったのかな・・・?
でも、トンヌラさんは女王様を追いかけてはいかないようだ。
トンヌラさんは何を考えているのだろうか。
聞きたいけど聞いたところで何を言っているかわからないし。
ここは、化粧水を作るしかないのかな。
『マユ!ご飯っ!』
『ミルクなのっ!』
『ご飯ー。』
「え!?まだ夕方だよ!!」
トンヌラさんが喋れるようになるために、化粧水でも作ろうかと思っていたところに、マーニャたちがやってきてご飯を請求してきた。
クーニャはご飯ではなくて、ミルクだったけれども。
『美味しそうな臭いがするのー。お腹すいたのー。』
『ミルクー。』
『ささみちょうだーい。』
どうやら持ち帰ってきたマーニャたちのおやつの匂いに反応して、お腹が減ってきてしまったようだ。
それにしても、女王様がいたときからおやつ持ってたのに、女王様がいなくなってからでてくるとは・・・。
「今日は皆で一緒にご飯を食べるんだからね。おやつとして少しだけだよ。」
マーニャには煮干しを一匹、クーニャにはミルク、ボーニャには小指程度にささみを切って渡す。
三匹とも目の前におやつが置かれると、思いっきりがっついていた。
それをじぃーっと見つめているトンヌラさん。もしかして・・・。
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