第103話
「あ・・・貴女やっぱり女性だったんですか・・・。もう、僕はダメだ。もう、お婿に行けない・・・ぐすっ。」
ザックさんが行ってしまったら、また茶トラの猫になってしまっていた男性が泣きはじめた。
そんなに嫌がられるとこちらも嫌になってくる。
「誰にもいいませんから。というより見てません!湯気で見えませんでしたから!!」
「・・・ほんとうですか?・・・ぐすっ。」
泣きながらこちらをチラリと見てくる男性。
私の方も精神的なダメージ大きくて泣きそうなんだけど、泣いてもいいかな・・・?
「ほんとうです!」
「今時ぃ~、裸見を~られたくらいでぇ~お婿にぃ~行けない人なんてぇ~いませんよぉ~。」
ベアトリクスさんも男性が泣き止むように肩をポンポンと軽く叩きながら慰めている。
ふいに、男性が顔をあげてベアトリクスさんを見た。
顔を最初に見て、それから視線が下がっていき、ベアトリクスさんの胸の位置で視線が止まった。
そうして、男性の頬がうっすらと赤く染まりだした。
「・・・僕、貴女に裸を見られたことにします。どうか、僕をお婿にもらってください」
「をい!」
「あらぁ~。」
どうやら男性にとってベアトリクスさんは好みドンピシャだったらしい。
それにしても、態度が全然違うので嫌になってくる。
もう、早く黄緑色の卵の話を聞いて、追い出そう。それがいい。
「それは、後でベアトリクスさんと話し合ってください。それで?貴方のお名前を教えていただけますか?それからこの黄緑色の卵のことも教えていただけますか。」
嫌悪感を出来るだけ表さないように、丁寧に訪ねるが、男性はこちらを見ようともせず、ずっとベアトリクスさんに視線を送ったままだ。
「僕は女王陛下の近衛騎士でトンヌラと申します。ベアトリクス嬢とおっしゃるんですね。貴女とお会いできてよかった。僕は伯爵家の三男でして、お婿に行かなければならないのです。是非、ベアトリクス嬢のお婿にさせていただけないでしょうか。」
「あらぁ~。うふふ。でもぉ~今はぁ~マユさんのぉ~質問にぃ~答えてくださいねぇ~。」
男性は女王様の近衛騎士だったようだ。先程、女王様が化粧水を試してみたという近衛騎士のようだ。
って、近衛騎士がこんなんでいいの!?
この国、本当に大丈夫なのかしら。
「黄緑色の卵は王家に伝わる大事な卵です。今回、マユさんが女王様に素晴らしい化粧水を献上してくださいましたので、女王様からの褒美の品となります。まあ、僕といたしましてはとってもはた迷惑な化粧水で、困っておりますが。しかも、女王様僕で実験するんですよ。何度のお湯なら人間になれるのかと何度も熱湯を・・・。お陰でやけどをするところでしたよ。まったく、なんであんな迷惑極まりない化粧水を女王様に献上なんてしてくれたんですか。ほんと、いい迷惑です。」
トンヌラさんが先程までは泣いていたと思えないほどにつらつらと言葉を発している。
やっぱり、あの化粧水を迷惑に感じていたのか。面白がっているのは女王様だけだよね。
本当に渡してよかったのかな。
それにしても、この黄緑色の卵が女王様からの褒美だっただなんて。
もしかして、これが女神様の言っていた精霊王の卵だろうか。
「この卵って精霊王の卵ですか?」
「ええぇ!?何を言っているんですか、貴女は。胸と同じで脳も足りないんですか?精霊王の卵など伝説級のものですよ。そんなものを貴女に女王様が褒美としてでも渡すなんてことはあり得ませんよ。これだから胸がない人は・・・。」
トンヌラさんは、そう言ってため息をついた。
これって、私、喧嘩売られてるのかな?
売られてるんだったら買うけど。
「あーそうですか。じゃあ、女王様からの褒美を確かに受けとりました。わざわざ届けにきてくださってありがとうございます。ああ、紅茶なんていかがですか?喉が渇きましたでしょう?といっても先程淹れたので温くなってしまいましたが。」
「ありがとうございます。くれるものはなんでももらいますよ。もちろん冷めきった紅茶でもね。さあ、持ってきてください。お茶菓子ももちろんありますよね?」
冷めた紅茶を出すと言えば歓迎されていないから出ていこうと思うかと思ったらそんなことはなかった。
しかも、お茶菓子まで要求されている。
なんで、女王様の近衛騎士ってこんなに厚かましいの。
生憎、お茶菓子なんて用意していないし。取り合えず冷めた紅茶だけだそう。
こんなに言われてわざわざ紅茶をいれなおす必要もないよね。
『マユ、これをお茶菓子にだすのー。』
『あの人きらいなのー。』
『これはマユ食べちゃダメだよ?』
覚めきった紅茶を手に取って、運んでいるとマーニャたちがやってきた。
そして、美味しそうなフィンガーサンドイッチを手渡してきた。
静かだと思ったら、どうやらこのサンドイッチをどこかに取りに行っていたらしい。お金どうしたんだろう?
「ありがとう。」
私はマーニャたちからフィンガーサンドイッチを受けとる。
見た目は普通のフィンガーサンドイッチのようだ。美味しそうに見える。
だけれども、私は食べちゃダメってどいうことかしら。
「お待たせいたしました。紅茶とフィンガーサンドイッチでよろしければどうぞ。」
「ああ。ありがとう。それにしてもベアトリクス嬢は綺麗で可愛いな。」
「うふふ~。ありがとうございますぅ~。」
ソファーに座ってトンヌラさんはベタベタとベアトリクスさんにさわっている。
なにやらベアトリクスさんの額に血管が浮いているのは気のせいだろうか。笑っているようだけれども、目が笑っているように見えないのは気のせいだろうか。
「ベアトリクスさん。そのフィンガーサンドイッチ、マーニャたちからなんですけど、食べないでくださいね。」
念のためこっそりとベアトリクスさんに告げる。ベアトリクスさんは心得たとばかりに小さく頷いた。
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