78話 音を立てて近付いてくる昼夜逆転生活
「暇だなー……」
ベッドの上でぐだぐだとしていると時間は11:00。生活サイクルはやはりボロボロに崩れていて、昼夜逆転……とまでは行かないが、それでも不健康な生活が続いてしまっている。
誰かを呼ぶという気にもならず、かと言って1人で出来ることは限られてしまう。そろそろ昼飯時ではあるが作るのが面倒だ。どこかに食べに行くのもありだが、そもそも起き上がるのがめんどくさい。
見るからに駄目人間だ。いやまぁちゃんとやっても立派に駄目人間なのだが。中々に地獄である。もはや救いようが無い。あはは、絶望。
と、軽く精神的に病みかけたが何とか持ち直す。携帯に目を向けると着信音。そこの名前には「天音唯」と記載してある。まぁ基本的に通話は唯や両親などとしかしないしなぁ。
と、4コールぐらいしてから電話に出る。いつものやかましくも癒されるその声を聞いて安心する。
『やぁ、だらだら好きの葵。元気してたかい?』
「唯こそどうだ?だらだら過ごすのは楽しいか?」
『むぅ……なんで私がだらだらしてると決め付けられてるのさ。まぁ間違ってはないがね』
「決め付けられてんのは俺もだ。間違ってはないけどな」
事実だらだらしてたわけなので何も間違っちゃいない。ただなんとなく決め付けられるのは腹が立つのでやめて欲しいところだ。
「で、どうしたんだ?」
『別に用なんて無いさ。幼馴染同士が意味も無く通話をする事なんて普通だろう?』
「んー、まぁ……そうだな」
友達同士で離れていても会話ができる時代だ。今はトークアプリが主流ではあるが、こうして通話をする人もいるだろう。それに最近は子供でもスマホを持っている時代だ。それこそ父さんの時代のように家にかけて「○○君に代わってもらってもよろしいですか?」とかいう時代じゃないしな。
簡単に誰とでも繋がれる時代だ。
『それに君の声も聞きたかったしね。葵の声、私は好きなのさ』
その言葉にドキッとしてしまうが、唯には伝わっていないだろう。と言うかここで狼狽えるからいつもからかわれるわけで。
平静を装い思った事を言う。
「そっか。俺も唯の声好きだぞ。なんつーか……癒されるって言うか……唯?」
うぅ……と言う唸り声が聞こえるが、唯が何かを喋る気配はない。しかし10秒ほど経ってから唯が息を吸う音が聞こえた。ふぅ……と息を吐いたのか。マイクに向かっての吐息は耳にスマホのスピーカー部分を当てて通話をしている俺にもダメージが来る。
『ずるいよ葵……私ばっか君に惚れさせるなんて……』
「そ、そういうつもりで言ったわけじゃないんだが!?単純にそう思ったから言っただけだ!」
『それがずるいって言ってるのさぁ!なんなの!?君は私を惚れさせるプロなの!?あー、もう好き!葵好き!』
「は、はぁ!?今言う!?それ今言うことか!?タイミング考えろや!」
『いつまで経っても告白して来ないじゃないか!先手を打ったまでだよ!」
「ア・ホ・か!?1週間ちょっとしか経ってねえわ!」
『むぅぅぅぅぅ……』
つかなんで喧嘩してんだ俺達。いや待て、これは俺は悪くない。うん、唯がなんかいちゃもんつけてきたのが悪いので俺が色々悩む必要無いよな。そうだそうだ。これは唯が悪い。俺は悪くない。はい解決!閉廷!
「はぁ……とりあえずこの話は置いておこう」
『ヘタレだ!』
「ぶん殴りたいんだけど」
『えー、じゃあ……意気地無し?』
「蹴っていい?」
『まさか……ED!?』
「はっ倒すぞお前」
下品だからやめようね?あと苦しんでる人に失礼だから。違うんだよ。欲望が無いわけじゃない。一緒にいたいだとか、2人でどこかに行きたいだとかの気持ちはある。
けどそれもこれも半端な心でやっていいもんなのか?とも思ってしまう。自分の考えが少しズレ気味なのは分かってはいるが、とにかくはっきり好きと言う気持ちを持ちたいのだ。
『ま、安心したまえ。私は君以外について行く気も無いし、君をずっと待つさ。何日、何ヶ月……何年経っても私の思いは変わらない。君といたいと思うだけさ』
「……今それ言うの反則な気がする」
『本心を語っただけさ。それにこのくらいで反則なら君はいつも私をドキドキさせるだろう?葵の方がよっぽど反則さ』
別に唯に対して何かをやっているわけじゃないんだけどな……。それでもストレートに好きでいてもらえていることに喜びってのは感じる。危うく告白してしまうくらいにはな。
『……なーんか声だけじゃ我慢出来なくなってきちゃったなぁ』
「今日はダメだぞ?動くのが面倒すぎる。もてなす気になれん」
『別にもてなさなくても大丈夫だよ?私は葵の隣にいれるだけで満足だからね』
「……それを口実にする気だろお前」
『あはっ、バレちゃった?ま、別に今日はいいさ。こんな事言ってるけど私も動くのが面倒だからねぇ……このまま通話を続けるかい?何か囁いてあげようか』
魅力的な提案だが、遠慮しておく。恐らくだが変な方向に持ってく気がするし。
……本当に、天音唯はずるくて可愛い女の子だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます