77話 葵ってタイツ好きだよね?

『家来ないか?』


そんな連絡が来たのは夏休み初日の昼頃だった。

やる事もなくてうだうだとベッドの上で転がっていたところに急に連絡が入った。即座に起き上がって着替えを始める。


(待って待って!嬉しいけど急になんで!?)


好きな人の家に呼ばれる。これほど嬉しいことなんて無いし、だからこそ私は出来るだけ早く準備を進めている。

何するんだろ……と言うかまた2人きり!?もう……葵は本当に私のこと大好きだよねぇ。

そんな葵のためにも急がなくちゃ!


……と思っていたのだけど。


「おう唯、おはよ。まぁ上がれよ」


「う、うん……」


玄関には靴が3人分。葵の靴は下駄箱にあるはずなので今この家には……


「あら唯。おはよう」


いるよねぇ……やっぱり君らいるよねぇ。まぁいいさ。そう何度も何度も2人きりになったら私が大変なことになってしまうからね。

しかし……これは一体なんの集まりなんだろう。来て何か話でもあるのかな?と思っていたけど、やってることと言えばゲームだけ。


「ん。やるだろ?」


「やるけど……あれ?なんで私呼ばれたんだい?と言うか今日はどんな目的で?」


「目的?単純に遊ぶだけだが。唯がいないと全員揃わないだろ?」


と言ってコントローラーを手渡してくる。……まぁいっか。たまにはこういう風にのんびり遊ぶのも。

とりあえず全員叩き潰そうかな!


☆☆☆


「4人チームでも勝てないだと……!?」


「異常に強いわね……」


「まぁ発売日からやっているからね。そう簡単には負けないさ」


ふふんっと自信ありげに笑う唯。俺達の実力が無いというのもあるが、単純に唯が強すぎる。

もう……なんだろうな。こっちは格ゲー初心者みたいにとりあえず強い技連打するだけなのだが、唯は細かい攻撃でバースト圏内まで持っていく。で、気付いたらバーストされてる。あれだ。動きが全然違うんだ。


「別のゲームとか無いの?天音さん無双が凄すぎるから……」


「無いことは無いけど唯ってゲーム自体が得意だから苦手なやつとか無いと思う。なんか無いかな……」


「あの……その、このレースゲームとか……やりたいです」


「別に良いけど……これ4人までしか出来ないんだよなぁ」


なので1人が楽しく遊んでいるところを見てないといけなくなるのだ。別に見るのが俺なら全然構わないが、みんなはそうはいかないだろう。やはり遊んでいる以上自分も加わりたいと思うのが普通だ。


「1回のレースで交代すれば良いんじゃない?4人の中での順位で交代するとかさ」


「じゃあ……その、レースが終わったら何位の人が交代するかを決めるんですか?」


「そうなるわね。葵、なんかトランプとかあるかしら」


「ん?無い。……いや待てよ。あるかもしれない」


多分部屋のどこかにある。真尋のやりたい事も分かったし、それなら4枚見つかればそれで良い。多分あると思うんだよなぁ。実家にあるのは確実だが、もしかしたら持って来ているかもしれない。

適当にありそうな所を探していると扉の付近に気配を感じた。

小柄で、とても可愛らしい姿をしたそんな人物。


「何しに来た?」


「単純に手伝ってあげようと思っただけさ。そんな警戒しないで欲しいね」


唯の今日の服装はオーバーサイズのパーカーにショートパンツ。それとタイツを合わせたもの。正直な話をするとその服装は俺が1番好きな服装だったりする。理由?単純に可愛いだろ。

リビングにいた時にも気になってはいたが、こうして自室にそういった服装をした美少女がいるって考えると、これが色々期待してしまうような状況なのだ。


「葵ってタイツ好きだよね?」


「ぶっ!い、いきなりなんだよ……」


「単純にそう思っただけさ。これは推測にすぎないけれどね。なんとなくだけど、葵はタイツが好きそうだなって」


「まぁ……好きだけどね?けどそれ言ったら引かれるよな?って思って我慢してたんだが」


冷静に考えていきなり「俺タイツ好きなんだぜ〜」とか言ってる奴は引かれて当たり前だろう。さすがにそこまでのテンションでは無いが、そもそもテンションの問題じゃないしな。恋人同士ならまだしも幼馴染の関係でタイツ履いてくださいとは言えないだろ。


「ふふっ、引くわけないじゃないか。むしろ良い情報だね。そっかぁ……タイツ好きなんだねぇ」


(なんかこれ弱み握られてないか?)


にやにやと笑っているし。なんだろうな。予感ではあるが、この先唯がタイツを履くことが増える気がする。いやそれ自体はご褒美……いや、なんでもない。やめとこうこれ。


☆☆☆


「わり、結構奥の方にあったわ」


「どれだけ雑に詰め込んでたの!?」


まぁ全然使わないし仕方ない。いや、友達がいなかったからとかじゃない。確かに自分のトランプを見たのは久しぶりだ。引越しの時以来かも。ちなみにその前は入寮の時。その前は小4とか。ちゃんと使うのも小4以来だな。うん、地獄。


「今回の使用法は違うけど、意外とこの歳になっても楽しめるよな」


「最近はオンラインで大富豪なんかも出来ちゃう時代だからねぇ。便利な時代になったもんだよ。私はもうついていけない……」


「天音さん16歳だよね?」


「きっと唯さんだけ時間の進みが遅いんだよ!だから周りはどんどん加速していくんだと思う!」


瑠璃は玲に対してのみタメ口になる。中学時代の他の友達にもそのような喋り方かもしれないが。ちなみに美鈴ちゃん呼びもあまりしない。


「じゃあ葵、Aから4まで」


「ん」


4枚にしてから真尋がカードを引く。そこに書いてあるのは2の数字だ。つまり次のレースで4人中2位になったものが交代。正直トランプでやる必要があったかどうかはあれとして、これなら誰か1人がずっと代わらないというのは無いだろう。

レース後に引けば良くないか?とは思うが。

まぁ良いや。レースが始まる。

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