48話 カレーの隠し味
「出来たわよ。盛るから持って行って」
「任せたまえ。真尋も座ってて構わないよ?」
「ふふっ、良いのよ。唯が手伝ってくれて嬉しいわ」
改めて思うが本当にこの2人は仲が良い。唯が恐らく1番心を開いてる相手だしな。真尋もそれは同じなようで、結構唯には何でも話すらしい。俺はと言うと仲は良い(と信じたい)がそこまで何でも話せるほどじゃないので、少し悔しかったりする。
なんだかんだ9年以上一緒なんだよなぁ。唯と初めて会ったのが小一なので随分と昔のことだ。
「葵、お風呂ありがとー」
「お、丁度今から飯だぞ」
タイミングが良い。やはりご飯は温かい状態で食べたいだろうしな。じゃあ待てと言われそうだが、こちとら腹減ってるんでな。
☆☆☆
「いただきます」
しっかりと手を合わせてから言う。最近はそれが出来ない奴も多いし、昔から両親にしっかりといただきますが言えないなら食べるなと言われてきたので、自然にするようになってる。
それはそうと今はカレーだ。決して食い意地が張ってるわけじゃないが、目の前に食欲をそそる食べ物があれば仕方ない。
口に運びそれを含む。ふむ。めっちゃ美味しいな。何が美味いとかそういうのを説明しろと言われても難しい。だって美味しいって感想しか出てこないし。
「うま。ごはんがススム君」
「葵、それ古い。1998年とかのやつ……」
「逆に何で年数なんて知ってるんだ」
それはそうとしてそんなに古いの?え、なんか俺おじさんみたいじゃん。まだ15歳だぞ俺。
しかし、こうやって食卓を囲むことが入学してから……いや、実家でもあまり無かったなぁ。
だからこそこの状況が俺は意外と好きだったりする。1人で食べるのは楽ではあるが、寂しいものがある。やっぱりご飯は楽しく食べたいしな。
「カレーの隠し味って家によって異なるよな。まぁ俺の場合、家族内で派閥が別れてたんだけど」
「家族内で別れることはなかったけど、確かに家庭によって違うかもね。僕の家はソースだったよ」
「俺の父さんがまさしくソース派だったな。嫌いじゃないけどあんまり好きでもなかった」
そもそも母さんのカレー濃い目だし。それをわざわざ更に濃くする父さんに賛同が集まることは残念ながら無かった。思い返せばそのカレーも、隠し味戦争も小学生までしか出来なかったので、懐かしく感じる。
「私の家はヨーグルトなんか入れてたわね。……ちょっと。なんで、え?って顔してるのよ」
「真尋。ヨーグルトは私も初めて聞いたかな」
「なんでぇ!?」
ヨーグルト……ヨーグルトねぇ。うん、聞いた事ないな。
「あ、でも私の家もヨーグルト入れてましたよ。お肉が柔らかくなるので食べやすかったです。普通に美味しいですよ?」
「瑠璃……好き!」
「忙しい奴だなお前」
しかしヨーグルトか。多分家で出なかった理由としては家族全員が乳製品をあまり得意としてないからだと思う。
俺はそれに加えて甘い物も苦手なので、話題のスイーツとか食べようとも思わないしなぁ。
「私の家はコーヒーだったかな。あぁあれだよ?インスタントコーヒーの粉」
「普通ね」
「普通だな」
「わぁーん!瑠璃ー!2人がいじめてくるー!」
泣きつく唯。だって普通じゃないか?テレビなんかでもよくやってるし、カレーの隠し味と言えば!って感じだし。
「まぁ俺もインスタントコーヒーがなんだかんだ多いな。普通すぎるけど。母さんの好みの味がこれだから自然にインスタントコーヒー派になるんだよ。ソースは……うん、まぁ不味くはないよな」
「美味しくもないってことじゃん!」
まぁ薄いカレーならありなんじゃないかな。家のは少し濃いから不評だっただけだ。
「で、これは何を入れてるんだい?」
「調べたところ1番オーソドックスなのはにんにくらしいからそれを入れたわ。そんなに臭いも気にならないと思うけど……」
「ふむ。確かにね。とても美味しいよ。真尋には毎日このカレーを作って欲しい」
「ふふっ、それなら葵も呼ばなきゃね」
「俺炒めるぐらいしかしてないんだが」
7割方真尋がやったと言っても過言じゃないし、そもそも炒めるぐらいなら誰でも出来るので実質10割真尋である。
「ごちそうさま。風呂入ってくるわ」
「一緒に入るかい?」
「冗談でもやめて欲しいかな。じゃ、入ってくる」
食器をシンクに運ぶ。冗談でも、と言ったが完全に冗談と捉えることが出来なかったのだろう。赤くなった顔を見られない内に風呂場へと向かった。
☆☆☆
「はー……気持ちいい」
風呂自体は好きでも嫌いでもないが、疲れてる時の風呂は好きだ。唯達がこうして家に来て楽しいと思う反面やはり疲れる。
(けど楽しいのが上かな)
そもそもこうやって複数人でお泊まり会ってのは中々出来るものじゃない。それに加えていつもは1人で飯を食い、1人でダラダラすると言う傍目から見てクソみたいな日常を過ごしているからな。中々出来ないことってのは楽しい。
ちらりと扉を見る。鍵がしっかりと閉まっているのを確認してほっと息をついた。
冗談だと分かっていてもああ言うのは心臓に悪い。しかもそれを分かっておきながらからかうように言うのでなおタチが悪い。
(まぁある程度の好感度はあんのかね)
好感度と言うと恋愛ゲームを連想するが、そもそもああ言った発言は仲が良くないと出来ないものだ。
考えてもみてほしい。道行く知らない人にいきなり「一緒に風呂入りませんか!?」って言ったら逃げられるに決まってるだろう。そもそも言う気が起きないが。
ぶんぶんと首を振る。頭を冷やそうとは思ったが風呂はまだまだ温かかった。
☆☆☆
「上がったぞー」
脱衣場を出てリビングへ向かう。真尋は教科書とノートを眺めている。熱心な事だな。真尋の目標も唯に勝つ事なのでそのために努力をしているのだろう。
一方その唯はのほほんとした顔でコントローラーをいじって、玲と瑠璃を容赦なくボコボコにしていた。
上がったぞの声に唯と真尋が反応する。タイムラグ大きいな。海外チャットかよ。
「真尋と一緒に入るー!」
「え、私1人で入るつもりだったのだけど……」
「風呂は無駄に広いから2人でも入れるぞ」
「なんで葵も一緒に入るの推進してるの!?」
そりゃ出来るだけ一緒に入ってもらった方が色々節約になるしな。一緒に入ると言うのならそれをしてもらった方が良い。
「真尋……入ろ?」
「うっ……」
真尋は唯のこう言うキラキラした瞳に弱い。うるうると瞳を震わして上目遣いで真尋を見つめる。……あざといな。
最終的に真尋が折れて、楽しそうな唯と仕方ないわねと言った表情の真尋が風呂場へと向かって行った。
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