28話 終止符
そして始まる第2クォーター。ここからは茜、林頼りだ。茜は問答無用で上手いし、林はインサイドで勝負ができる。それに茜、林にディフェンスが寄ったらその時は速水さんが外から打てば良いのだ。
「健有がポストプレーしてくれると楽なんだよな。ま、俺も打つんだけどさ」
「ここに来てようやく俺たちの出番だからな……茜が打つなら俺も楽」
確かにここ4試合はほとんどの試合が在原さんと速水さんを中心に攻めてきた。ここで差を広げておきたいな。
と考えているとブザーが鳴る。第2クォーターが始まりディフェンスに付く。とは言え相手も相手でバスケ部員が多いクラスだ。簡単には止められない。
それに俺の所が穴と言うのはバレているだろう。……ディフェンスほとんど練習してないしなぁ。
(あ……)
という間に抜かれる。そのままゴールへと向かって行きあっさりとシュートを決められてしまう。……これは俺の思い込みであって欲しいが…こういう風にあっさり決められるとその後にどんどん決められてしまう気がする。
ただそれは思い込みではなくどんどんと決められてしまう。一応反撃はするのだが勢いを止めきることは出来ない。
2分が経つ頃には5点リードが5点ビハインドとなっていた。
(まぁ……そりゃ俺のとこから決められるよな)
落ち着いてる暇は無いのだが。今の所圧倒的に戦犯かましてるし。
茜のマークはやはり厳しく中々攻めることも出来ない。ただやはり茜は上手いのだろう。色々な技術を駆使して何とかシュートを決めていく。
ただ点を取っても防げなきゃ差ってもんは縮まらない。それどころかスティールをされる事も増えてきた。
結局第2クォーターが終了する頃には21-34と13点ビハインドとなっていた。
「まずいなぁ。葵の所が穴って完全にバレてる。オフェンスに関しては問題無いんだけどな……」
「マジごめん」
「いやいいんだよ。そもそも練習をしなかった俺の責任だし。うーん…けどまあ1回下がろっか。あと在原も。青木と……裕喜行けるか?」
「1クォーターだけなら行ける……かな。そんなに役に立たないけど……」
とは言え俺と在原さんよりも守れる2人だ。俺に隠れていたが在原さんもディフェンスは相当苦手らしく、バンバン抜かれていた。
これでは仕方ないだろう。今やらなきゃいけないことはとにかく点を取らせない事だからだ。
「じゃあ防ぎつつ点取るぞ!裕喜もオフェンスには参加してもらうからな」
「うげぇ……また走るのかぁ……」
こらこら露骨に嫌そうな顔をするな。まぁ確かにディフェンスを全力でやってオフェンスも参加。異常なまでの体力の無さを誇る彼方にはキツいだろうが……。
と、第3クォーターが始まる。問題なのがオフェンスだ。司令塔の在原さんが抜けるのは痛手だし。かと言って在原さんを入れるとディフェンス時には弱点となってしまう。
「心配しなくていい。裕喜は……体力は無いけど、なんでも出来るから」
「在原さん……?」
その言葉をそのまま受け取っていいのだろうか。パスが繋がる。その場でシュートを放ちゴールへと吸い込まれる。これで差は11点。しかし止めなきゃ意味が無い。最初のディフェンス。止めるか止めないかでかなり変わってくる。
(中々攻めてこないな……)
当然と言えば当然だが。後半で11点のリードなら積極的に攻める必要は無いだろう。30秒きっちり使ってスティールの可能性を潰す方が効果的だ。バイオレーションになればハーフコートからディフェンスをスタート出来るし。
パスを回しながらゴールを伺っているのか、はたまた30秒を狙っているのか。どちらにせよ攻めに時間を使われると不利なのは明らかにこちらだ。
「でも、シュートは打ってくる」
「在原さん?それはどうして」
「なんとなく。けど神代は如月に勝つことを第一に考えてる。バイオレーションを狙った戦法で神代の勝ちか聞かれたらそうじゃないから」
言われてハッとする。確かにそうだ。試合には勝っても神代は勝負から逃げているからだ。まずシュートは打ってくるだろう。
茜を振り切りパスを受け取る。シュート体勢に入り……放ったボールは茜の手に防がれる。……止めた!
そのまま走りもう1本決める。これで差は1桁だ。
パスを林がカットする。そのまま行く…と見せかけて速水さん。マークマンは一瞬遅れ、その隙を逃さない。スリーが決まり差は6点!
更に畳み掛ける。スティール、シュートを繰り返し3分が経つ頃には点差は2点。決められることはあるが、第2クォーターに比べりゃ全然マシだ。
(いやー……強いなぁ)
バスケ部員3人はもちろんだが彼方、青木君も普通に上手いのだからビックリしてしまう。改めてうちの学園のバスケ部はレベルが高いんだなって思う。
ただ上手いのは何もうちのクラスのバスケ部員だけじゃない。1組もバスケ部員は多いクラスであるし、運動能力も高い生徒が多いからだ。
ちらりと在原さんを見る。うずうずした様子で、試合に出たそうにしていた。
「在原さんも出たいんだな」
「当たり前。見てるだけじゃつまらないの。自分でプレーするのが1番楽しい」
「俺は見てるだけでも好きだけどな。俺自身これと言ってめちゃくちゃ好きなスポーツが無いからかもしれないけど」
「……皐月もバスケ部に入ればいい。私が教える」
「在原さん女バスでしょ……」
「あっ……」
どうやら本気で忘れていたらしい。まぁ男女混合でチーム組んで試合をやっていたら忘れるのは仕方ないかもしれないけど。
とは言えプレーをしたいのは否定はしない。
「在原さんならもう一度出番があるだろ。居なきゃ困る選手だしな」
「私、役に立てる……?」
「立てるよ。あんなにすごい技術あんだから。バスケのことはよく知らないけどさ。それでも在原さんが上手だってのは分かるよ」
そもそも素人があれこれ言うことじゃないしな。これ以上俺が言うことはない。
……在原さんの表情にはほんの少しだけ笑顔が浮かんでいた。
☆☆☆
「第3クォーターお疲れ。最後の5分だな」
「さんきゅ。……3点差か。在原。出れるか?」
「任せて。……けど、私の所からまた抜かれない?」
在原さんの言う通りだろう。点を取っても取られちゃ意味が無い状況だし。追いかける展開ってのはどうしても不利な状況になってしまう。
「もう……攻めるしかないだろ。ディフェンスどうのこうの言える状況じゃないし。と言うわけで皐月も入ってくれ。あとは攻める」
「攻撃は……最大の……防御ってやつだね……」
完全に体力切れの彼方が言う。……お前もう喋んな。
「そういう事だ。とにかく攻めるぞ」
「……のーきん」
「在原。やっぱ下がるか?」
「……良い作戦だと思う」
危ねぇ。今同じこと思ってたわ。確かにあと5分。守るだけじゃ何も出来ないけど……ディフェンス捨てて攻めんのかよ。
「シュートは落ちるのを願うしかないよねー。健有君が拾ってくれるよ!」
「俺にプレッシャーをかけないでくれ速水」
「ま、いいよ。攻めんぞ!」
丁度ブザーが鳴る。最後の5分だ。やることは1つ。攻めるのみ。ディフェンスもするが、もう攻めまくるしかないからな。
最初のシュートが落ちる。リバウンドに関しては問題無いだろう。林の高さってのはかなりのものだ。
一気に攻める。一刻も早く決めたいがディフェンスも厳しい。ゆっくり少しずつ攻める。
そうして茜にパスが渡る。そのままシュートを放ち、ゴールに吸い込まれた。
……スリーポイント。一気に同点だ!
「おっしゃあ!」
ガッツポーズをする茜。まだ時間は4分以上残ってはいるが、追いついたことが大きい。
ただ俺たちが攻めを終えれば次は守りだ。
やはり俺の所は穴と思われているのだろう。……そうじゃなきゃ神代がわざわざ俺のところから攻めてくるわけがないからだ。
「茜に勝つんじゃなかったのか?」
「……今はこの試合に勝ちたい。それだけだ」
おいマジかよ。止められるわけねえじゃん。案の定抜かれてそのままゴール決められたし。
あー……マジやべえ。
そんな決めては決められを繰り返す。4点差と広げられ再びオフェンスとなる。
「林!」
「はいよ」
高さのリードってもんは簡単には崩せないもんだ。林が決めて2点差。そしてパスカットから再びオフェンスの時間がやってくる。
「葵!」
誰も予想しなかっただろう。ここで俺にパスを渡すなど。……だって俺が1番予想してねえからな。俺が立っているのはスリーポイントゾーン。……決めれば逆転だ!
絶対に決める。そんな気持ちでシュートを放つ。
☆☆☆
試合が終了して引き下がって行く。そして体育館の空いてるスペースに俺たちは腰を下ろした。
「はぁ〜……」
「まぁまぁ気にすんなって。あんな状況で決めれたらそれこそ葵のメンタルが強すぎんだよ。素人なんだから」
「けどなぁ……あそこで決めてれば勝ってたのになぁ」
結論から言えばあのシュートは外れた。それもかなり酷い精度だ。バックボードを超えて鎖に引っかかった。そんな所でホームランは求めてねえよ。
あれさえ決めれば流れはうちだったろうな。結局あそこから失点して最終的のは6点差。54-60で試合を終えた。
「やっぱり私がシュートを教える。皐月、今すぐ入部届書いて」
「だから在原さんは女バスだって。女装でもしろってのか?」
「……ありかも」
無しに決まってんだろ。今後学園に通えなくなるわ。
……正直色々ボロクソに言われるの覚悟してたんだけどな。やっぱりこいつら良い奴だなぁ。
こうして俺たち白凰学園高等部1年3組の第1回球技大会は幕を閉じた。
☆☆☆
「あー疲れた……」
「ふふっ、葵かっこよかったよ。最後のは……うんまぁ、どんまい」
「慰め方下手かよ。そういう唯はどうだったんだ?」
「1勝4敗だったよ。クラスMVPに何故か私が選出されてしまったよ。あの1本だけなのにね」
「その1本が劇的だったからね。……成績で言うなら私だと思ってたのに」
結局の所俺たちのクラスはどれもパッとしない成績だった。そう言えばバスケは1組が結局学年一に輝いたらしい。あの強さなら納得だろう。
そんな事より疲れた。もう今日は家に帰って寝たい。来週になればまた通常授業だ。俺達学生はまた少しだけ退屈な日常を過ごすことになる。
「ねぇ葵」
「真尋?どうした?」
「この後私に付き合ってくれるかしら。買い物に行きましょう?」
……どうやらすぐにはゆっくり出来なさそうだ。
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