第五章 文化祭準備
第24話 肩書を一々気にするな
文化祭――生徒主体となり、主に各クラスや部活などの創作活動、演劇発表、模擬店を開催する学校行事であり、教育課程において履修(出席)が義務づけられている行事だ。
文化祭成功という目標のために、文化祭実行委員会なるものが設立され、生徒会や各種委員会と協力し、OB・OGや地域も巻き込んでの大きな行事となる。
最近は毎日文化祭実行委員会が開かれており、放課後から夜遅くまで企画会議や予算編成が行われている。
次期生徒会の庶務として、俺も参加が義務づけられてはいるが、サッカー部主将としての仕事を優先させてもらっている。
「雪ちゃんせんぱ~い……。今日も生徒会の仕事ですか……?」
部活が終わった下校時、後輩のちろるはとても残念そうな顔で尋ねてきた。
「そうだなぁ……。部活の時間は免除されてるから、せめて部活終わりは顔出そうかなと。」
「うぅ……。先輩と一緒に帰りたいですよ~。」
基本的にちろるは俺のことが大好きである。
思えば事の始まりは、七月の最初にちろるから告白を受けたことだ。
しかし、俺には神崎さんという大好きな女の子がいて、その時はよく考えたいと返事を保留。
その後、ちろるから猛アピールを受け、いつしか俺もそんな一途な彼女に惹かれ始めた。一学期末に何やかんやあり、俺から彼女に告白した。
ところが、俺の気持ちにまだ迷いがあったことを見透かされ、クリスマスまでを期限に、俺は自分の心をはっきりとさせ、ちろるは俺を惚れさせるという決意をした。
――以上、回想終了。
「いや~だ~、先輩と帰りたいっ! 帰りたい! 帰りたい!」
最近は校内でも、ちろるは積極的にアプローチしてくるようになった。期限のクリスマスまで、もう残り二か月ほどに迫ってきたからだろうか。一方の俺はというと、概ね自分の気持ちを固めつつあった。
「駄々っ子かお前は。」
「むぅ~、あのロリっ子次期会長めっ……。」
ちろるは恨みがましそうにそう言った。生徒会長選挙以来、氷菓の呼称がロリっ子副会長から、ロリっ子次期会長に変わっている。
「こらこら、逆恨みはやめなさい。っていうかそれなら、ちろるんも生徒会に立候補したらどう?」
「しましたよ! 雪ちゃん先輩が生徒会入るなら、私も入れてくださいって! そしたらロリっ子次期会長に、『嫌よ』とばっさり切り棄てられましたよ!」
「あぁ……そうだったのか……」
そういえば、氷菓とちろるの二人はよく喧嘩してたな。
それに生徒会に入りたい志望動機が、好きな人がいるからなんて理由じゃ無理だろう。
「あっ、じゃあ生徒会は無理でも、文化祭実行委員に参加したらどう?」
「おぉ、なるほど! そうしたら一緒に作業できるし、一緒に帰れますね。今すぐ文化祭実行委員に登録してきます!」
「でも、担当部署が一緒になるとは限らないけど……。ってか多分ならないけど。」
ちろるは俺の言葉を聞かずに、校舎内へと急いで駆けていってしまった。
「仕方ないなぁ、俺も生徒会室の方へ向かうか。」
各クラスの文化祭準備期間はまだ始まっていないが、既に生徒会及び文化祭実行委員の主要メンバーは大忙しである。
現生徒会メンバーはもちろん、次期生徒会メンバーもまた各自役割を当てられ、文化祭成功を目標に活動している。
現生徒会長の姉貴は、全体の監督責任者であり、企画・安全管理・予算決済など全てに渡って、不備や改善点がないかチェック後、それらの承認をする。
現副会長兼、次期生徒会長の氷菓は、姉貴の補佐として、同様にチェック・承認を担当したり、各部署の進捗状況を確認したりしているらしい。
現会計の言葉先輩は、文化祭の予算管理や決済報告など、財務管理の長になっている。
次期副会長の伊達丸尾は、選挙時の宣伝活動が認められ、広報担当の長に抜擢されたらしい。
そして次期庶務の俺はというと……。
姉貴は最初の会議で、俺の担当業務を言い渡した。
「雪――お前は、各部署で人手が足りない時に、各長の指示に従い下僕の如く働け。」
「下僕……って、何か正式な担当部署名みたいなのは、俺にはないのか?」
「肩書を一々気にするな。どうしても付けたければ、後で自分で考えてスペシャルコーディネータでもインテグレータでも勝手に名乗るがいい。」
実体はただの雑用係なのに、そんな仰仰しい肩書を自分でつけるのはさすがに恥ずかしい。
「あと、当日の記録もお願いする。お前カメラ好きだろ。異論はないだろ? ないよな。あるわけないだろ?」
姉貴の凄みある言葉に、異論を言える空気ではない。
「……はい。」
肩を落としてしぶしぶ了承する俺に、氷菓は宥めるような微笑みをみせた。
「雪が撮った体育祭の時の写真、躍動感あるいい写真がいっぱいだったって好評だったよ。」
「えっ、そうなの?」
驚く俺に、隣りに座っていた伊達丸尾が口を開いた。
「あぁ、僕のいる五組でもなかなか評判だったよ。ご苦労様だったね。今回の文化祭でも、いい写真を撮ってくれたまえ。」
度のきつそうな丸眼鏡をくいっと上げながら、やや上から目線で丸尾は言った。
「おいおい、無知な丸尾くんに教えておくが、『ご苦労様』は目上の者が目下の者に使う言葉だ。」
俺の言葉に、伊達丸尾は腹立つ顔で反論した。
「何か問題でも? 役職上、次期副会長である僕は、次期雑用係の君よりも上の立場だろう。」
「俺の役職は次期庶務だ。落選したくせに偉ぶってんなよ。」
「何だと! それは聞き捨てならん!」
ヒートアップし始めた俺と丸尾を諫めたのは、姉貴の一声だった。
「――黙れ。」
この学校の全員を否応なしに黙らせる冷たい一喝。
「「すみませんっ!!」」
何はともあれ、生徒会長選挙後の会議でそんな事があり、俺は雑用係兼当日の記録係という役職に当たった。
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