第41話 ちろるVS波動球打てそうな人のテニスの試合
グラウンドでは、一年生達が高校初めての球技大会に気合を入れている姿が見えた。一年生で俺の知り合いといえば、サッカー部の後輩とマネジのちろるくらいだ。
二十分休み、俺は飲み物の購入がてら、一人ふらふらとテニスコートへと向かった。
テニスコートの金網ごしに、見知った後輩へと声をかける。
「きゃー、ちろるんがんばって~」
俺は地声の棒読みで、女の子の黄色い声援っぽい台詞を、ベンチに腰掛けるちろるへと投げかけた。背後からの俺の声に、ちろるは銃声でも聞こえたかのように勢いよく振り返った。
「うぇっ!? 先輩、応援に来てくれたんですか?」
なんだよ「うぇっ」って……。しかしまぁ、そんな変な声を出してしまうほどに驚いたらしい。目をぱちくり見開き、ぽかんと口を開けている。
「……あぁ。まぁ、昨日応援してもらったしな」
「そう……ですか。ありがとうございます///」
ちろるは少し頬を染め、硬式用のテニスラケットをきゅっと握った。どうも試合のゲーム間の休憩時間であるようだ。
「試合はどうなん?」
「今はセットカウント3-2で、相手にリードされちゃってます」
――軟式とはいえ、テニス経験者のちろるを押しているとは。
対戦相手をちらりと見ると、ゴリラのような体躯の女子生徒がブンブンとラケットを素振りしていた。
「……相手のやつめっちゃ強そうだな。本当に女かよ? 波動球とかうってきそうじゃん。百八式くらいまでなら使えんじゃね?」
「ちょっと! 聞こえちゃいますって!」
ちろるは慌てて俺の口を塞ごうとしてきたが、金網越しなので不可能であった。
「まぁ、テニスのことはよくわからないけど――、『本気で……全力でプレーしてくださいよっ――!』」
俺は少し上目遣いで、昨日ちろるに言われた言葉を、そのまま真似して言った。
「ちょっ!? 私の真似すんのやめて下さいよっ!」
ちろるは金網にひしっとしがみ付き、恥ずかし気に頬を染めながら言った。
「ほら、まぁ応援してるから――頑張ってこいよ」
「……はいっ。頑張ってきます!」
ちろるはにこっとほほ笑んで、コート内へと戻っていった。
第六ゲームは、ちろるのサーブからのゲームであった。
ボールを空高く投げ上げ、ちろるはふわっと空に跳びあがった。美しく伸びた腕とラケットが一直線になり、最高到達点でボールを捉え、そのまま思い切り振り向いた。
「――っ!?」
時速180キロほど出ていると思われるフラットサーブに、相手は全く反応できなかった。
「フィフテーン・ラブ!」
サーブが入ったのかどうか見えなかったが、どうやらちろるのポイントのようだ。
「ナイスサーブ! その調子で次はツイストサーブだ! もしくは零式サーブ!」
ちなみに俺が言ったのは、どちらもテニヌのサーブである。いや、ツイストは実際にできるんだっけか。まぁよく知らないけど。
「無理ですよっ!」
「っじゃあ、サーブの後は前につめて、ドライブAだっ!」
「それ相手にボールぶつける超バッドマナーの技ですから! 雪先輩、集中切れるんでちょっと黙っててください!」
試合中にも関わらず、ちろるは律儀にツッコミを返してくれた。その後は大人しく黙って見守っていたが、ちろるは見事にそのゲームを取り返した。
「やるじゃん。でも、まだまだだね。」
「もう、雪先輩! どんだけテニプリ好きなんですか。応援するならちゃんとしてください!」
「ごめんってば。このまま応援したいところだが、俺もこの後授業がある。」
「そうですか。残念ですけど……、仕方ないですね。」
「っじゃあ、俺は教室戻るけど、この後も試合がんばってな。」
「はい! わざわざ応援に来て頂いて、ありがとうございました。」
ちろるを応援したいのと、あと普通に試合の結果が気になるところだが、少し名残惜しくも俺は教室へと戻った。
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