第20話 青葉VS月山の試合の決着とさらなる敵

 バチバチに火花を飛ばし合いながら、後半戦スタートのホイッスルが鳴った。


「――いくぞおらぁっ!!!」


 ラグビー部の巨漢である太田くんを先頭に、我が軍は相手コートに向かってガンガンつき進んで行く。


「っく――! 何という気迫だ!?」


 前半と打って変わり、覇気に満ち溢れた一組の面々に、五組の男子は驚愕の表情を見せた。


「おい、青葉! お前なにしやがった?」


 俺のマークについている月山もまた、驚きの表情を隠しきれなかった。


「いや、別に何も。 男の意地ってのがあるんだろ……知らんけど。」


 戦略的には、ただ全員で全力で攻めるという単純なものである。戦法とも呼べない乱雑な方法だが、ただ前だけ見てつき進むという方法は、彼らの気迫と相まって簡単には止められない勢いのよさがあった。


 ラブビー部の太田君を中心に、団子状態になりつつもゴール付近までボールを押し込み、硬直状態になったところを陸上部の鈴木がボールを受け、一気に中へと切り込んだ。そして運動神経のいい野球部の松坂にボールが渡り、見事シュートを決めた。


「「よっしゃぁぁあ!!!」」


 クラスメイトみんなで抱き合って、追加点を喜ぶ。なるほど、これが青春という奴なのかもしれない。そしてこれは思っていたよりも、案外楽しいものだ。


「まだまだいくぞっ!」

「おおおおおおっ!!!」


 その後も一組の勢いは止まらず、バスケ部の真野が見事相手ボールをスチールし、マークにつく月山をなんとか振り切った俺がパスを受けた。ドリブルでゴール手前までボールを運び、ふわりとボールを浮かせたところを、長身のバレー部の高木がヘディングを決めた。


 後半開始5分で、我らが一組は怒涛の猛攻撃を見せ、二点の追加点をくわえた。


「――おい、俺らも負けてらんねぇぞっ!!」

「おおおおおおっ!!!」


 月山の檄で、三組の男子たちも息を吹き返したように攻め返して来た。月山個人も部活の公式戦なみに集中してプレーを始め、負けじと俺も月山を全力でマークした。それからはお互い譲らずの攻め合いが続き、最終的には6-4という野球のようなスコアで一組は三組を下して勝利した。


「おっしゃあ! このまま優勝するぞっ!」


 試合終了後、野球部の松坂が雄叫びのような檄を飛ばす。


「おおおおおっ!!!」


 大地を震わせるほどの声があがった。これまであまり乗り気でなさそうだった文化部と帰宅部の男子も、試合終了後には額に若干ながら汗を輝かせていた。


 石段に座り込みながら、そんなクラスメイト達の様子を眺めて一息ついていると、俺の身体を山のような暗い影が覆った。


 驚いて背後を振り返ると、そこには、ラグビー部の太田君をも超える大きな男が立っていた。


「おうっ!? いきなり背後に立つなよ。びっくりするだろ。」


「ふむっ――、優勝はおそらくお前の一組か、俺たちの所属する四組だろうな。」


 声の主は、四組のサッカー部である剛田であった。身長180㎝を超える巨体は、やはりいつ見ても迫力がある。


 その傍には、同じく四組のディフェンスに定評のある池上の姿もあった。


「まぁ、俺たち四組に勝てるわけないけどな~。何せ圧倒的パワーの剛田くんと、ディフェンスに定評のあるこの俺がいるんだから。」


 まるでジャイアンのすぐ傍らで軽口をたたくスネオのように、池上はそう告げた。っていうか、こいつ自分で定評があるとか言ってんのか。恥ずかしくないのか?


「月山のいる五組とはもう試合したのか?」

「これから当たるぜ~。まぁ負ける気がしないけどな。」


「月山と池上なら、技術的には月山の方が上手いだろ。」


 俺が挑発するように言うと、池上はそんなこと気にもとめないというように答えた。


「ふんっ! 俺をこれまでの俺と同じだと思っては困るな。球技大会に向けて、ここしばらく、練習中の月山のデータも、青葉のデータも徹底的に分析している――。フェイントやドリブル、パスコースのくせも徹底的に分析済みだ。」


「……その情熱は部活の公式戦で対戦相手に向けろよ。」


「何とでもいうがいい。俺はこの球技大会で、圧倒的守備力を女子に見せつけるんだ。そして、こんな堅守の池上くんなら、きっと堅実な将来を一緒に歩める……と女子からもてはやされるんだ。お付き合いを跳び越えて、女子から俺への求婚の嵐が巻き起こる。」


「全く……おめでたい奴だ。」


 剛田も池上に対して少し呆れた表情を見せた。


「剛田も本気でプレーするんだな。」

「当たり前だろう。――獅子は兎を捉えるにも全力を尽くす。無論全力で勝利を目指す。」


「とか言っちゃって……。剛田も好きな子にアピールしたいとかじゃないの?」


 茶化すようにいうと、剛田は少し取り乱した様子で否定した。


「ば、ばかを言うな! 俺はそんな軟弱な精神でサッカーと向き合っておらん!」


 どうやら図星だったようだ。まぁ、年頃の男子なんてみんな考えることは同じである。無論、自分も含めてだ。といっても、神崎さんは今頃、きゃっきゃうふふと、体育館でバドミントンを楽しんでいるのだろうけれども……。


「――決勝で会いまみえることを楽しみにしてるぞ。」


 そう言って剛田と池田は、チームメイトの元へと戻っていった。


「いや、リーグだから絶対当たるんだけど……。」


 この後は今の試合が終わって、さらにもう一試合が終了するまで一組の試合はない。本かPSPでも持って来ればよかった。あぁ、神崎さん応援に来てくれないかなぁ。まぁ、いま来られても試合ないんだけどね。



――いや、ちょっと待てよ。


俺はこの瞬間、コペルニクスも驚く逆転の発想を思いついた。

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