第240話 アスモデウス

各家を回り一ヶ所に集まるようにお願いする。

不思議なことに誰も何も疑う事もせず素直に従うのだ。

一度、嘘だと思わないのかと尋ねたら嘘をつくと天罰が下り行方不明になると答えたのである。

村の中央にある教会に集めるにはそれほど時間は掛からなかった。


「これで全員みたいですね。

さっと説明して急いで逃げないとですね」


村人全員が教会に入ったのを見届けて中に入ろうとした瞬間である。

クローディアの頭を何かが貫通し地面が弾けた。


「クローディアさん!」


だが、流体金属であるクローディアの顔はすぐに元通りになった。


「問題アリマセン。

体内ノコアトエネルギーストレージガ破壊サレナケレバ大丈夫デス」

「良かったー、って、わわわっ!?」


今度はタルトの周囲を覆っている魔法防壁に何かが衝突し目の前で火花が飛び散っている。

やがて、勢いが収まり黒っぽいものが地面に落ちた。


「これって…まさか」


実物を見るのは始めたが一瞬でそれが何かを理解した。

地面に落ちたそれは紛れもなく弾丸である。

この世界では銃はおろか火薬さえ存在していないのに弾丸があるなんて明らかにおかしいのだ。


「おいおい、どうなってんダヨ。

二人殺したつもりだったのにどっちも無傷なんておかしいダロ」


少し離れた家の屋根に一人の悪魔が立っている。

それよりも驚くべきは肩にかけられているのはスナイパーライフルなのだ。


「あれハ…アスモデウスデスワ!」

「知ってるんですか、シトリーさん?」

「奴はカドモスと同じ第一階級のアスモデウス。

長らく行方が分からなかったのですがこんな場所に潜んでいるナンテ…」

「へー、お前がシトリーなのカ。

ということはそっちの小さいのが聖女様ってことダナ。

にしても何なんだいそのふざけた格好ハ?」

「好きで着てるんじゃないですから!

魔法少女ってこういうものなんです!」


その言葉にキョトンとするアスモデウス。

だが、突然笑いだした。


「クックックッ!

そういうことカ!

お前はこっち側の人間カ」

「そういう意味ですか…?

あなたとは共通点なんかなさそうですけど」

「これが何だか分かるダロ?」


アスモデウスが肩に掛けているライフルを指して笑みを浮かべる。


「初めて本物をみますがライフルですよね…?

もしかして…あなたは元人間って事ですか?」

「ああ、そうダゼ。

俺も魔法少女なんてみるのは初めてダガナ。

寧ろ実在してるのに驚いてるくらいだがら同じ世界なのか若干疑問ダゼ」

「仮にそうだとしてここで何をしてるんですか!?」

「この世界はイイゼ。

悪魔になった俺にとって人殺しは好きなだけ出来るシナ。

ここは俺が管理している村ダ。

理由は教えられねえがここにいる人間は家畜みたいなもんダナ」

「家畜なんて酷いです!

どうしてそんなことが出来るんですか!?」

「俺は元々、兵士で戦場に出ては多くの敵兵を殺しタ。

それ以外にもバレないように一般市民モナ。

ところで、この村には老人がいないことに気付いタカ?」


タルトは思い返してみたが家を回ってる時も高齢な人は男女問わず見た記憶がない。


「もしかして…」

「ここにはある習慣があってナ。

ある年齢を迎えると村から出て桃源郷へ向かうノサ」

「桃源郷?」

「そこはこの世の天国のような場所と言われてるが実際は俺の狩場へご招待って訳サ。

その時の驚きと恐怖に満ちた顔は最高ダゼ。

そして少しずつ追い詰め狩るのは快感ダ」

「あなたは今まで会ってきた中で最低の人ですね…」

「それは俺にとって誉め言葉ダ。

今の俺は悪魔ダゼ」

「悪魔だって改心して綺麗な心を持つことだって出来るんです!

あなたをやっつけて改心させてみせます」

「ここは戦場ダ。

お子さまが見てるアニメと違って血が出て痛かったり死んだりするダゼ」

「最初は私の思っていた魔法少女のイメージとは全然違いました…。

怖い想いもいっぱいあったけどこの力で多くの人々を助けられたんです。

この世界に酷い現実があるのも知ってますから怖くても頑張るだけです!」

「良い度胸ダ。

命を賭けたゲームを楽しもうゼ」


肩に掛けていたスナイパーライフルを構えるとタルトを狙い連射する。

それを避けることなく魔法防壁で全てガードした。


「弾の無駄ですよ。

あなたのライフルでは私の防御は突破出来ません!」

「心配スンナ。

俺の能力は銃弾の生成が出来るし火薬ではなく魔力で発射させて威力は元の比でナイ。

じきに貫通させてヤルヨ」


そして、諦めることなく弾幕の嵐が続く。


「話しても分かって貰えなさそうですし仕方がないですね…」


攻撃に移ろうとしたその時、一瞬先の未来が見えるタルトの能力で驚きの光景が映った。

何と魔法防壁が貫通するのを見たのだ。

すぐに回避行動を取るが僅かに遅く防壁を貫通した弾丸がタルトの肩に当たる。


「うわあっ!!」


肩の激痛に思わず膝をついてしまう。


「貴様!

タルト様を傷付けるとは万死に値シマスワ!」

「主様ノ生命活動ノ危機ヲ検知。

敵対勢力ヲ除去シマス」

「おっと待ちナ。

これが何だか分かるカ?

動いたらそこの教会にいる全員含めてここら一体が吹き飛ぶゼ」


アスモデウスの右手にはスイッチのようなものが握られてる。


「二人とも待って!

村の人が死んじゃう…うぐっ!」

「タルト様!

治癒が始まってイナイ!?

一体何故デスノ?」


このやりとりに腹から笑い出すアスモデウス。


「クックックッ!!

聖女様は素直で真っ直ぐな性格ダナ。

それじゃ戦場では生き残れないゼ。

人を疑うということを覚えておくんダナ。

まず俺が効かない弾を無駄撃ちしてたんじゃなく油断させるのが目的サ。

避ける必要がないと思わせ本命を確実に命中させるためニナ。

まさか、それを見極めて避けようとするとは未来でも見えるノカ?

次に遠距離射撃でいい俺が姿を見せたということは策があるからに決まってるダロ。

こんなふうニナ」


手元のスイッチを見せつける。


「正義の味方である聖女様が村人を見捨てるなんて出来ねえヨナ?

手出し出来ないのをなぶるのが楽しみダゼ。

アア、それとさっきの弾丸には呪いが込められてて本当は即死するんだが耐性でもあるノカ?

やはり正面から戦ってはいけない相手のようダナ。

戦場では用心するのは長生きの秘訣ダゼ」


タルトが死なないのは女神の加護を受けているからである。

以前、魔物の迷宮で女神の涙を飲んだことで加護が強化され即死級の呪いでも耐えきる事が出来るのだ。

ただ、無効化するには時間が掛かる。


「アア、それと俺を殺せば聖女様の呪いは解けるゼ。

村人と聖女様、どっちを助けるンダ?」

「そんなの決まってマスワ。

貴様を殺してタルト様を助けマスノ」

「主様ノ生命ガ最優先デス」


二人は攻撃の構えを取るがタルトが制止する。


「ふたりとも駄目!

私は…大丈夫だから…」


苦しみながら懇願するタルトに二人は苦悩する。


「さすが聖女様ダゼ!

自分の命より他人を優先するトハナ。

さて、呪いの弾丸をあと何発耐えれるか楽しみダ」


人質を取られ手も足も出ず救援も望めないような場所では希望もなくなす術もないのであった。

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