第210話 三竦み
ラファエルに一刀両断されたはずのピンキーだが、何事もないようにそこに立っている。
一瞬の出来事であったがタルトはその一部始終を見ていた
まず動いたのはラファエルであった。
その速さは何とか魔力を追うことで捉えられたが、初速から最高速が出ることでより速く体感したのである。
抜刀の瞬間は見ることが出来ず、線が走り抜けピンキーの上半身と下半身が真っ二つになった。
だが、驚くのはこれからであった。
ピンキーの体が地面の影に吸い込まれたと思ったら再び元の状態で現れたのである。
その攻防だけで二人が只者ではことがみてとれた。
(ラファエルっていう人、凄い速かった…。
桜華さんの抜刀速度と同じくらいに感じたよ)
『マスターの認識通り、ほぼ同速ですね。
音速に近い速度で移動していました』
タルトとウルは自分から注意が外れたことで冷静に状況を考える事が出来た。
(それより不気味なのがピンキーって影は不死なのかな?
胴体が真っ二つになってたのに平然と元通りだもん…)
『その能力については不明ですね。
あまり接近するのは得策ではないかもしれません』
タルトをよそにピンキーの一言にラファエルが激昂していた。
「全員殺すだと…?
貴様が?
大天使であるこの私を殺せるとでも思っているのかっ!?」
「うるさいんですけど。
弱い奴ほどよく吠えるって言うしね」
「まだほざくか!
まずは貴様からあの世に送ってやろう!」
「今度はアタイの番って決まってるんですけど」
周囲に待機していた天使達の背後に急に黒いフードを被ったピンキーそっくりな人物が現れ、ナイフを背中に突き立てる。
その気配にすぐ反応し回避したのはラファエル、タルト、ノルンだけであった。
あれだけいた天使の軍団は一瞬のうちにラファエルを残し全滅したのである。
「へー、三人も残るとは思ってなかったかな。
聖女様も人間なのに良い反応だね」
「なに、今の!?
もういないけどピンキーそっくりだったよ!」
そう回避と同時にすぐ地面へと消えていったのだ。
「よくも我が部下を殺ってくれたな!
次は復活できないよう八つ裂きにしてやる」
ラファエルは高速の攻撃にてピンキーをバラバラに切り裂いた。
ゴロゴロと地面に落ちた遺体が地面へ吸い込まれ再び何もなかったのような状態で現れる。
「酷いのさ。
あんなバラバラにしたら痛いんだよ」
「あれでも死なんとは…。
どうやら完全に消滅させないと駄目なようだな」
「とりあえず先に聖女様を殺してから相手するから待っててくれないかなー?」
「ふん、気が散るならまずは聖女から消してやる」
「えっ?ちょっと、なに二人で勝手に決めて!」
「諦めて散れ」
ラファエルはタルトに狙いを定め高速移動からの強力な一撃を繰り出す。
だが、その切っ先はタルトに届くことなく見えない壁に阻まれた。
「むぅ…何かに弾かれたぞ…?」
「危なかったぁ…急いで魔法障壁を張って良かったよー」
「魔法障壁ごときで我が攻撃を防いだだと…」
これほど攻撃が通じない事態は過去に経験したことなく苛つきを覚えるラファエル。
ピンキーに続き人間であるタルトでさえも無効化みせたのだ。
そんな二人の背後に凶刃が襲い掛かる。
「背中ががら空きだね」
ピンキーの分身がいきなり襲いかかってきたがラファエルは高速で回避し、タルトは魔法障壁で防御する。
「なんなのさ。
二人とも死角からの不意をついた攻撃でも簡単に捌くなんて」
「やはり貴様から殺す事にしよう」
「二人とも落ち着いて!」
ピンキーの分身による急な死角からの攻撃、ラファエルの音速に近い高速な攻撃、タルトの魔法障壁による完全防御と手加減を加えた魔法弾の連射という三者三様の攻撃が飛び交う。
「聖女よ、貴様手加減をしているな。
この俺に対してふざけているのか!?」
「いやっ!
ふさけてるわけじゃなくて。
別に命を奪いたい訳じゃないですし…」
「聖女様の頭の中はお花畑なのかな?
ここでは命の奪い合いをしてるのに相手を殺す気ないなんてどうかしてるのさ」
必殺の技を繰り出す二人に対して消極的で防御側に回っているタルト。
段々、ピンキーとラファエルの攻撃がタルトに集中していく。
「ズルいですよー!
女の子一人に二人がかりなんてー」
「殺し合いにずるなんて存在しないよ。
生き残った方が正義なのさ!」
「ふん、所詮は下朗の考えだな。
弱き場所から攻めるのは当たり前の戦略なだけだ」
「わぁーー!
そんな酷いですってー!」
更に激しくなる攻撃に防御に集中し始めた。
そんな猛攻の最中にラファエルの隙をみてピンキーがその背後から凶刃を振り下ろす。
「貴様、やはり目障りだ!」
ラファエルの反応は早く襲い掛かるピンキーを一太刀で切り捨てた。
だが、すぐに影から復活する。
「だから、何度やったって無駄だってさ。
アタイに攻撃は無意味なのさ」
「…」
表情は見えないが陽気に笑うピンキーを無言のままじっと見据えるラファエル。
「不死身な存在などない。
貴様の再生力には秘密があるはずだ」
「仮にあったとしても天使なんかには分かりっこないね」
「ならば、これでどうだ?」
まさに一閃であった。
目にも止まらぬ突きがピンキーを襲い、その小さな身体を貫き上空へと持ち上げる。
「お前の再生には地面が関係してるのではないか?
必ず再生前に地面に吸い込まれるように消えるからな。
そして、遠く離れた空で塵になるといい」
光輝く剣閃がピンキーを細切れにしていく。
「これで終わりだ!
巨大な光の柱が立ち昇りピンキーの身体を焼き付くしていく。
暗い夜空に突如現れた太陽のような輝きが消え、再び闇に閉ざされていった。
「跡形もなく消えたか。
所詮は敵ではなかったな」
ゆっくりとタルトの元へと舞い降りてくるラファエル。
「次はお前の番だ、聖女よ。
如何に頑丈な障壁といえど、いつかは突破してみせようぞ」
著しい魔力の上昇が起こりラファエルの周辺につむじ風が発生する。
突きの構えをとり剣の切っ先が眩しく光り輝きだした。
「最高速度と最大魔力の一点集中で貫けぬモノはない」
その圧倒的な威圧に全力で正面に障壁を張るタルト。
「凄い魔力を感じる…。
防御出来るか分からないけどあの速度じゃ回避も出来ないし受け止めるしかない!」
「覚悟を決めたようだな。
いくぞ、聖女よ!!」
ドスッ
ラファエルの背中に短いナイフが突き立てられた。
「あれくらいで死んだと思うなんてダサいのさ!
おかげで完全に油断したね?」
崩れ落ちるラファエルの後ろに先程、粉塵になって消えたはずのピンキーがたっていた。
「貴様…あれでも死なないとは…」
「ラファエルさんっ!!」
「おや?
聖女様は敵の心配かい?
すぐに止めを刺してあげるから心配しないで大丈夫だよ!」
倒れ込むラファエルの急所を狙い、再びナイフを振り下ろすピンキー。
その刹那、無数の魔法弾が降り注ぎピンキーを吹き飛ばした。
「それ以上はほんとに死んじゃうよ!」
魔法弾の放つのと同時にラファエルに駆け寄るタルト。
かなり深くまで貫かれ瀕死の状態であることから直ぐ様、治癒魔法を掛けるのであった。
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