第192話 限界

ノルンは覚悟を決めて魔法を発動させた。

自身が放てる最高の光属性魔法を。

それだけ闇の魔力が強大であり全てのゾンビを止める手段が無かったのだ。

発動した魔法はセリーンごとその中に存在する闇を滅する効果がある。

予想通りゾンビは死体に戻ったがセリーンも重傷を負い地面へと墜落していった。


「セリーン!!

おい、大丈夫か!!」


直ぐ様、ノルンは地上へと降り立ちセリーンに駆け寄る。

だが、そこには肌は重度の火傷を負い生死をさ迷う少女が横たわっていた。

辛うじて生きているに過ぎずこのままでは命を落としてしまう状態である。

セリーンを抱き抱えタルトの元へと急ぐ。


「おいリリス!

タルトの様子はどうだ!?

何とか治癒魔法を掛けて貰えないか?

ここままだとセリーンは…」


リリスは辛そうな顔をして下を向いてしまう。


「ワタシにはどうしようネエゼ…。

意識はあるが苦しそうにしてて魔法ナンテ…」

「くっ、どうにかならないのか…」


この時、リリスの服の裾を掴む手が。

苦しそうな息づかいのタルトであった。


「セリーン…ちゃんを…ここに…。

魔法…かけますから…」

「タルト、お前…頼む、お前だけが頼りだ!」


ノルンは抱えていたセリーンをタルトの横に寝かせる。

タルトは震える手をセリーンにかざすと淡い光が輝く。


「いけるカ!?」


だが、それも一瞬で消えタルトは悶え苦しみ始めた。


「ぅあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「タルト!!

何だこれは、呪いの紋様が鈍く光っている…」


紋様の光が消えるのに合わせてタルトも落ち着きを取り戻す。


「魔力に反応するのか…?

これでは治癒魔法なんて不可能だ…」

「どうしようもネエナ…。

セリーンは出来る限りの治療はしてみるがここまで酷いと助かる見込みハ…ン?

タルト、おい大丈夫カ?」


まだ息づかいは荒いが再びリリスの裾を掴んでいる。


「リリスちゃん…お願い…私の…血を…セリーン…ちゃんに…」

「血カ!

確かに吸血鬼のセリーンなら血を飲めば再生力が戻るかもしれナイナ!」

「この状態で血を抜いて大丈夫なのか?」


ノルンは苦しむタルトの状態を見て心配をする。


「だがやるしかねえダロ。

前に聞いたが人間の血で特に魔力の高い人間が良いラシイ。

つまりワタシやノルンではあまり効果がなくタルトが最適という訳ダ」

「お願ぃ…私は…大丈夫…だから…」


リリスは近くにいた衛生兵から注射器を受け取りタルトから血を抜いていく。


「くぅ…ぅ…」

「オイ、大丈夫カ?

やっぱりやめるカ…?」

「大…丈夫…続けて…ぅ…」


血を抜かれて体内で再生が始まると魔力に反応しタルトを苦しめる。

やがて、注射器を満たすほど溜まったところで急いでセリーンの口に注ぎ込んだ。

最初は何の反応もなかったが僅かに指先が動き出し自ら喉を動かし飲み込むようになっていく。


「ヨシ、効果があるようダゾ!

でもこれ以上、タルトから採血は気が進まないナ…」


この時、ゾンビが沈黙したことで状況確認していたオスワルドが駆け付けた。


「リリス様、血液が必要であれば俺のものを使ってください!」

「そうダナ、タルトほどじゃないが多少は効果があるダロウ」


リリスは急いでオスワルドからも採血してセリーンに与えていく。


ゾンビが元の死体に戻り街は落ち着きを取り戻すなか沈黙せずに激しい戦いが続いている場所があった。

シトリーと桜華が相手をしているアイアンゴーレムである。


「セリーン、あの娘、大丈夫カシラ?」

「戦闘中に余所見とは余裕だなあ」

「アイアンゴーレムは動きが遅いから避けるのは訳ナイワ。

問題はこちらも攻撃が効かない事デスワ」

「まあなあ、このまま膠着状態じゃこっちが疲れちまうからな。

それにあんなものを見せられたら不甲斐ない闘いはみせられねえぜ」


アイアンゴーレムの攻撃を躱しながら様々な攻撃を仕掛けるが有効打は見つけられてない。


「何か良い手は見つかったか?」

「二つ分かったことがありマスワ。

一つは弱点である核が頭部にあるコト。

もう一つは魔法も全く効果がない訳じゃなく防御を上回る威力があればダメージを与えられることデスワ」

「うちも同感だな。

問題はその威力をどう出すか…だな」


桜華は今までの攻撃で物理攻撃が魔力で無効化されている訳ではなく鉄の硬度を上げているだけと推測していた。

普通の鉄であれば切断するだけの技量はあるがこのゴーレムが予想以上の硬さで全力でどれだけ効果があるかが予想できないのである。

しかも全力というのは巫覡状態になることから発動後、継続戦闘は不可能であり一か八かの賭けとなるのだ。

悩む桜華を横目にシトリーが微笑む。


「悩むなんて貴女らしくありセンワ」

「何だとお!

じゃあ、良い案でもあるのか?」

「簡単デスワネ。

限界を超えればいいんデスワ」


そう言うと右手に魔力を集約させていく。

炎のような赤色から白く色が変化していった。


「おい、それ以上やったらお前の手も燃えちまうぞ!!」

「言ったはずデスワ。

限界を超えるト。

防御を上回るほどの高温で防御を破ってみせマスワ…」


笑みを浮かべるシトリーであるが自身が耐えうる温度を越え激痛が走っていた。

そして真っ直ぐゴーレムに向けて飛行する。

ゴーレムの大振りな一撃を悠々と躱し肩口に飛び乗った。

間髪いれずに全魔力を集束させた右手をゴーレムの顔面へと突き立てる。

まばゆいほどの光を発しシトリーの右手とゴーレム表面の魔力障壁が激しくぶつかり合う。


「アアアアアアアアアアア!!

モット、もっとデスワ!!

タルト様をあのような姿にしたお前達を絶対に許しマセンワ!!!」


更に白く輝きを増していくシトリーの右手が遂にアイアンゴーレムの魔力障壁と頭部を貫いた。

そのまま崩れ落ちるゴーレムから離れるが力無く地面へと落ちていく。

その手は重度の火傷を負い一部、骨が見えているほどの重傷であった。


「あの野郎、やりやがったぜ。

限界か…うちもいつの間にか弱気になってたようだぜ。

面白れえ、やってるぜ!!」


さっきまで別人のように桜華の顔は晴れやかであった。

刀を地面と水平に構え切っ先をゴーレムへと向ける。

冷静になることで視界が広く刻がゆっくりと流れるように感じられた。


巫覡ふげき…」


見た目は変わらないが殺気や気迫が前とは別次元な感じられる。

桜華の家系に代々伝わるこの術は魔力で一時的だが著しく身体能力を飛躍させ本能的に抑えつけてる限界を超えられるのだ。

今までの桜華が解放したことがあるのが30%ほどでありそれ以上は廃人になる恐れがあるのでセーブしている。

それを今回は一気に50%まで引き上げた。


「四の太刀、影桜一閃かげざくらいっせん、弐式!!」


まさしく一閃であった。

吹き抜ける風を感じたと思ったらゴーレムの頭を風穴が出来ており桜華は突きの型のまま制止している。

次の瞬間、桜華の全身から血が吹き出た。


「かはぁっ!!

さすがに無理しすぎたか…」


そのまま倒れ込む桜華。

長い夜は終わり朝日が昇り始めている。

戦いには勝利したが誰も歓喜の声をあげず悲痛な悲しみに満ちた朝であった。

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