第171話 急襲
マリアのお披露目が行われてる頃、アルマールでは戦いを終えた兵達の治療が行われていた。
「いてててっ!
痛えな、もう少しマシな薬はねえのか、リリス?」
「文句言うならもっと激痛のある薬に変えてやロウカ?
闘ってる時は痛みなんか気にもしてねえクセニ」
「戦闘中は意識が研ぎ澄まされてるからなあ。
気を抜いてる今は痛みをちゃんと感じるんだよ」
リリスが桜華の治療しながらのやりとりだ。
「あーあ、時間掛けすぎて他はもう終わっちまったかあ」
「巫覡で全身ボロボロなんだから大人しくシテロ。
これ以上、手前かけさせんナヨ」
「おや、悪魔のくせに心配性なリリスちゃんじゃねえか」
プチんと聞こえたような気がした後、ブスッと爪を桜華の傷口に突き立てた。
「いてててててててててててて!!!」
「うるせえから体内で調合した特製の薬を打ってヤッタゼ」
他の場所でも大勢の兵が治療を受けている。
学校で医学を学んでいる生徒も多く参加しパンデミックが起こったような騒ぎだ。
幸いにも命に関わるような重傷者はいない。
自身もボロボロにも関わらずアチコチで状況を確認しているシトリーが次の場所に移動しようと天幕を出たばかりの時だ。
上空に強い気配を多く感じたのは。
「はあーぃ、皆元気だったかしらぁ」
「お前ハ!?」
シトリーが上を見上げると無数の天使の姿があった。
その中央にいるのは過去にタルトと互角以上の実力を見せられた大天使ガブリエルである。
その気配を感じ他の仲間も飛び出してきた。
「ガブリエル!?
何故、貴女がここに?
しかも、他の兵まで連れて」
「あらぁ、ノルンちゃんもボロボロねぇ。
大きな戦いがあるって聞いたのでぇ、戦勝祝いをしようと思ってねぇ」
「それなら他の兵はいらないはずだ。
貴女の狙いは戦いで力を使い果たすこの時を狙って来たのでは…?」
「そんなに睨んだら怖いわぁ。
本当は様子を見たかったんだけどぉ、上からの命令なのよぉ。
この街って色んな種族が共存してるでしょぉ?
だから、危険分子と判断されちゃったのよぉ」
確かに状況は最悪だった。
戦闘で傷を負ったり力を使い果たしたものが多く、まともに迎撃など出来る状況ではない。
そもそも天使相手に互角以上に戦える者も少ないのに予想もしてなく中心部への侵入をあっさり許してしまった。
「どうするつもりデスノ…?」
「そうねぇ…皆殺しかしらぁ」
「ここには多くの人間もいるノヨ!
そんな場所で戦ったら多くの犠牲がデルワヨ?」
「シトリーちゃんは分かってないわねぇ。
ここにいる人間も同罪なのよぉ」
「不味いワネ…。
こちらには闘う力が残されていないとイウノニ…」
考えるまでもなく絶望な状況だ。
ガブリエルだけで余裕で滅ぼせるのに多くの天使の兵まで連れている。
この状況を覆す方法など皆無で一人でも逃げれたら奇跡だろう。
「皆さんは避難を優先してください!
僕はここに待機で全然元気ですから時間を稼ぎます!」
皆が動けない状況でアルマール待機だった琉が飛び出した。
「アア、アタシもまだいけるゼ!
死に損ないのシトリー達は引っ込んデナ」
続いてカルンが飛び出す。
「リーシャもいけます!」
「ミミも大丈夫なのです!」
先の戦いで余力を残しているものが続く。
「お前らは危ないから引っ込んデナ」
「でも、みんなけがしてます。
リーシャだってたたかえます!」
「ミミもタルトさまのようにみんなをまもるのです」
「あははぁ!
随分可愛い戦士ねぇ。
カルンちゃんだったかしらぁ。
その子達を下げても死ぬのが早いか遅いかだけなのよぉ」
「舐めんナヨ。
一人でも多く道連れにしてヤルゼ…」
「うちも避難誘導よりこっちもほうがいいぜ!」
「こら桜華、待てッテ!
怪我人がしょうがネエナ、ワタシも手伝うゼ」
「リリス殿も姫様も全く…。
私めもお付き合いします」
桜華、リリス、雪恋もヒュドラ戦で全て出し尽くしており刀を握るのもやっとな状態だ。
「ふっ、困った奴ばっかだな。
天使相手に同族の私が相手しない訳にはいくまい」
「貴女も魔力が残ってないのに困った天使デスワネ。
タルト様から預かったこの街の人を守れなくて二度と顔を合わせられナイワ」
「わ、私も…微力ながら…」
「セリーンは昼間だから下がってナサイ。
今、傷を負ったら本当に死ぬワヨ」
「死ぬのは怖いですけど…。
でも、また一人ぼっちになっちゃうほうがもっと怖いです」
ノルン、シトリー、セリーンに続きティートも駆け付けた。
「あらあら諦めが悪いわねぇ。
それに人数も増えてるしぃ。
まあいいわぁ、何人でも全員殺すことに変わらないからぁ。
さあて、覚悟は良いかしらぁ?」
不敵な笑みを浮かべガブリエルが品定めをするように順番に眺めている。
「それともぉ…。
街の人から殺そうかしらぁ。
その方が面白そうじゃなあぃ?」
「ふざけるな、てめえ!
まずはうちらを殺してからにしてみろ!」
「全く鬼は短気で馬鹿だから困るわぁ」
「何だとっ!!
相変わらずムカつく奴だな」
「どう料理するかは料理人の私がきめるのぉ。
調理される貴女達に選ぶ権利はないわぁ」
そう、どんだけ強がってみせてもガブリエル言うことが正しい。
絶対強者であるガブリエルが全ての決定権があるのだ。
「ところでぇ。
タルトちゃんは何処にいるのぉ?」
この状況にも関わらずタルトが現れない事が不思議に思っているようだ。
「大切な用があって外に出ているだけだ」
「へぇ…この戦いの前って事は遠出してるのねぇ。
ノルンちゃん、何処に行ったか教えてぇ」
「例え殺されても言うわけはなかろう」
「しょうがないわねぇ。
何人か殺されれば話す気になるかしらぁ」
ガブリエルはゆっくりと地上に降り立つ。
「へえ、上空のほうが有利じゃねえのかあ?
うちらが怖くて降りて来られねえとおもったぜ」
「貴女達はそこで待機してなさあぃ。
もし、この街から逃げようとする者がいれば殺して構わないわぁ」
「ちっ、挑発に乗らねえか…。
まあ、全員相手にするよりお前一人のほうが勝てるかも知れねえしなあ」
「あらやだぁ、勝てるつもりでいるのぉ?
そんなに鬼って頭の中まで筋肉で出来てるんじゃなあぃ?」
桜華も勝てないのは理解している。
挑発して少しでも注意を集め民の避難の時間を稼ぎたかったのだ。
勿論、それでは何の解決にならないのは分かっているが他に出来ることが思い付かずにいる。
「さあて、まずは誰から遊ぼうかしらぁ」
ガブリエルが人差し指を立てるとその先に小さな光が集まっていく。
「まずはぁ…やっぱり貴女ぁ」
指先を傾けると光が桜華を目掛けて飛んでいく。
満身創痍とはいえ反応速度は衰えていない桜華がギリギリで躱す事が出来るほどの速度が出ていた。
後方の建物に当たり粉々に粉砕した。
「危ねえ…何とか反応出来たが当たってたら即死だった…」
このメンバーで最も近接戦闘が得意な桜華でさえ避けるのが精一杯だったのだ。
今の一撃で勝敗は決したようなものである。
「あらぁ、避けられちゃったぁ。
鬼の身体能力って凄いのねぇ。
次は誰にしようかしらぁ…」
ガブリエルは再び順番に品定めを始めたが、すぐにピタッと止まり目と目が合った。
「貴女に決めたわぁ。
確かタルトちゃんのお気に入りよねぇ?」
「ひっ…」
何と目が合ったのはリーシャであった。
恐怖で体が硬直し動くことさえ出来ない。
「リーシャアァ!!!」
隣にいたカルンが助けようと動き出そうとするが、それよりも早くガブリエルの指が動き光がリーシャへと襲い掛かった。
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